鈴木:あとで知ったんだけど、フェレットって寿命が短いんだよ。平均で7年くらいしか生きられない。だから、その家には主のいない部屋がいまだにずーっとそのまま残っているの。
藤山:新しいフェレットは飼わないんですか?
鈴木:フェレットはすぐ死んじゃうから、今度は猫にするって。
藤山:いさぎよいな(笑)。
鈴木:あとは、ペットかどうか分からないけど、アリを飼っている人がいたね。ほら、アリというと、縦にスライスされた土の中で巣をつくるのを観察するってイメージがあるじゃない?
藤山:ああ、そのイメージはあります。
鈴木:でも、その家のご主人は、平べったいプラスチックの箱に迷路のように仕切り板を立てて、そこにアリを入れて飼っていたの。
藤山:ほう。
鈴木:で、新築のとき、ご主人の書斎のデスクにプラスチックの箱が一望できるような薄い引出しをつくってあげた。それはすごく喜ばれたんだけど、引っ越して半年くらいして、ある日引出しを開けてみたら、アリが全員いなくなっていたらしい。
藤山:どこに行ったんですか?
鈴木:どこに行ったんだろうね(笑)。
藤山:いやいや、そこ大事でしょう。いきなり何百匹?何千匹?もアリがいなくなるって……。その箱は密閉されていなかったんですか?
鈴木:いちおう、密閉はされていたと思うけど。
藤山:なのに、どうして出て行けるんですか?しかも全員。
鈴木:それが分からないの。
藤山:ああ、それはもしかして、新居の居心地が悪かったんじゃないですか?アリのご家族に対しては。
鈴木:それはすまなかった(笑)。ちなみに、そのアリを飼っていた人も、アリが出て行ったあとは飼うのをやめてしまったね。
藤山:そして引出しだけが残った、と。
鈴木:ペットと家の関係って、実はそこがすごく悩ましいところなんだよ。
藤山:“そこ”ってどこですか?
鈴木:ペットが一つの「趣味」だという点。最近はペットを家族同然に扱っている家も増えているけど、一方で、趣味としてペットを飼っている家も依然として多いわけ。そうなると、さっきのフェレットみたいに、死んでしまったらもう飼わないとか、次は猫にしようとか、動物の種類もころころ変わる。建築工事として何かをつくってしまうと、動物の生態に合わせた変更は、なかなか難しいという問題はあるよね。
藤山:犬が好きな人はずーっと犬を飼い続けて、猫が好きな人はずーっと猫を飼い続けるものかと思っていましたが、そうでもないんですか?
鈴木:たしかに、犬と猫はそのまま継続するパターンが多いと思う。でも、それ以外の生き物は続かないことが多い。要するに、なんとなく心が通い合わない、通い合わないとは言わないけれど、犬や猫に比べれば心と心の結びつきが弱い生き物の場合は、どんなに熱心に育てていても、ちょっとしたきっかけでつい心変わりがしやすいのだろうね。
藤山:それはまさしく結婚生活と同じじゃないですか。心が通い合わなくなったあたりで、だいたい浮気をし始める。
鈴木:(笑)。だから、やっぱり飼うなら義理人情系の猫なんだよ。
(おわり)
会員登録 が必要です