藤山:家づくりって、考えるべきことが膨大にあるプロジェクトだなと、膨大にあるプロジェクトだなと、「もし、親が亡くなったら」みたいに将来のことを心配したかと思えば、「いま、子育てをどうするか」みたいな目先の問題も解決しておきたい。
鈴木:だからこそ、シミュレーションが大切になるわけ。これまでの経験を踏まえ、設計者が第三者的な観点から意見を述べてあげれば、クライアントのなかに物事を整理する道筋も自然にできてくる。そういうコンサル的な部分にこそ、設計者の仕事の価値があるのだろうなって、最近はつくづく思うよ。
藤山:当たり前の話ですが、打ち合わせって大事ですよね。
鈴木:そう。最初によーく話し合っておかないと、どこかピントのずれた家になるからね。まあ私も、若い頃は突発的に要望を追加されると、早く対応しなきゃっていつもあたふたしていたものだよ。でもいまは急な要望を追加されても、「1~2週間寝かせる」が基本になった。すぐには対応しない。
藤山:軽く聞き流しておく?
鈴木:一応うかがっておくけど、すぐには対応しない。だって、本当にもう一部屋必要かどうか分からないからね。それは、要望を出す側のクライアントも同じ。早く追加の要望を言っておかなきゃという気持ちになっても、あえて1~2週間寝かせておくくらいがちょうどいい。要望を紙に書いてしばらく机の上に置いておくとか。本当にそれが必要かどうか自問自答してみる。
藤山:あー、それ、すごくよく分かります。ちょっと寝かせるって、普段仕事をするうえでも重要なノウハウですよね。私の場合は書籍カバーのデザインを決めていく過程で、よくそういう局面にぶつかりますよ。書籍の装丁をお願いしているデザイナーと、「今回の企画はこういう内容だから、こういうデザインでいきたい」と打ち合わせをしますよね。でも、しばらくして上がってきたデザインを見ると、打ち合わせで確認した方向と全然違うデザインだったりする。しかも、イマイチなデザイン(笑)。そうなると頭に血が上ってきますね。〈打ち合わせと全然違うじゃん〉って。で、そのまま受話器に手を伸ばして電話をかけたくなるんだけど……ここでグッとこらえる。
鈴木:そうそう、そこでガマンする。
藤山:あえて1週間くらい寝かせておいて、「さて」という感じでおもむろにデザイナーに電話してみる。その頃には、〈これはこれでありなのかな~〉と思えるようになっているときもあります。〈むしろ、こういうデザインをさせてしまった自分が悪かったのではないか〉と、自分を責めてみたり(笑)。
鈴木:時間をかけることの良さって、おそらくそこにあるんだよ。よく「設計事務所に依頼すると、できるまでに時間がかかる」と言われるけど、それって図面を描くのに時間がかかっているわけじゃない。クライアントとの対話に時間をかけ、じっくり打ち合わせをしていくから自ずと時間がかかってしまうだけの話。
藤山:図面なんて、方向さえ固まればすぐに描けますからね。
鈴木:ほら、昔の建築家にはクライアントと手紙でやり取りしていた人が多かったじゃない。
藤山:ああ、そうですね。設計の依頼が手紙で来て、それに手紙でお返事する。
鈴木:手紙でやり取りすることの良さって、やはり「間合い」だよ。手紙の文面をしっかり読んで、ゆっくりお返事を書くという一連の流れのなかで、自然と良い間合いができていく。メールと違って感情的にならないのもいいところ。
藤山:メールだと、つい余計なことばかり書きますから。
鈴木:いまは思い立ったら即メールだもん。
藤山:じゃあ、鈴木さんもそろそろ手紙でお返事するようにしたらどうですか。
鈴木:うーん、でも手紙はさすがに面倒かもしれない。
藤山:やはり最後は、便利さに負けますね(笑)。