ひとの家見て、わが家を直せ。

会員限定

【第11回】やっぱり必要ありませんでした(3)

空間
その他
関心
悩みリフォームレビュー

鈴木:この「使われなかった寝室と子供部屋」から得た教訓は何かというと、二世帯住宅の場合、子世帯と子世帯の間に親世帯と挟むようなサンドイッチ形式はダメだということ。家族の仲が良いとか悪いとかそういうのとは関係なく、単に移動距離の長くなるプランは、不便だから部屋が使われなくなる。

藤山:さっきの炊飯器もガレージも、理由は同じでしたよね。便利だから使う、不便だから使わない。

鈴木:結局、そこなんだよ。ちょっとした便利と不便が、人間の行動を大きく左右してしまう。

藤山:便利と不便ね……。ところで、「つくったけど使われなかったもの」の例として、よくこんな話があるじゃないですか。いまは田舎に両親が健在だが、どちらかが亡くなれば子供夫婦が引き取ることになるかもしれない。だから、新築のときに親の部屋も一部屋つくっておきたいというパターン。あれって、実際はどうなんですか?

鈴木:うちのクライアントに関していえば、少なくとも親と一緒に住むようになったというケースはいまのところ聞いていないね。

藤山:1件もない?

鈴木:ないみたいだよ。やっぱり住み慣れた土地を離れて東京のほうに引っ越してくるというのは、歳をとるとなかなか勇気のいる選択なんだよ。

藤山:では、親の部屋をつくる必要はないですか?

鈴木:いらないと思う。そもそも、どうして親の部屋が話題に上るかというと、そこには資金援助が絡んでいることが多いの。新築の計画が具体的に進み、間取りもそろそろこれで決まりかなという頃になって、「いやー、実は親のことなんですけどね」って話が唐突に出てくる。それまで、親御さんに関する要望なんて一切出ていなかったのに。

藤山:資金援助を受けた途端に、急に気になり始める?

鈴木:そう。お金をいくらか出してもらうのだから、親の部屋も一部屋くらいつくっておかないとマズイかなって気になるんだね。

藤山:気持ちは分かりますね。で、鈴木さんはどうされるんですか? そういう急な話。

鈴木:図面がほぼ出来上がった段階で一部屋追加するのは厳しいから、まず、将来のシミュレーションしてあげる。敷地が広ければ、「建蔽率にまだ余裕があるので、万一のときは庭先に離れを一つつくれますね」とか。そう言うとたいていの人が、「じゃあ、それでいいか」って(笑)。

藤山:笑顔で帰っていく。

鈴木:そういう「○○かもしれない」に属する要望はたくさん出るけど、それにいちいち応えていたら、いくら部屋があっても足りない。大事なのは、慌てて一部屋追加することではなく、実際「そういうこと」になった際、わが家はどういう対応が可能かをきちんとシミュレーションしておくこと。

藤山:部屋というハッキリした形で対応するのは、間取り全体にも影響を与えますよね。

鈴木:そのとおり。

藤山:同じような「かもしれない話」に、家庭用エレベーターもあるじゃないですか。歳を取って足腰が弱ると階段の昇降がつらくなるかもしれない。だから、万一に備えてエレベーターを設置できるようにしておいたほうがいいかもしれない。

鈴木:それもよく相談を受ける。実際、後からエレベーターを設置できるように場所だけ確保しておいた家が何件かあるけど、これも、いまのところ1件も設置されていないね。

藤山:そうですか。

鈴木:だから最近は、エレベーターについて尋ねられたらこう答えている。「電動の階段昇降機があるので、それを使えば大丈夫ですよ。階段の壁に下地と電源だけ入れておきましょう」。そう言うとほとんどの人が、「じゃあ、それで」って。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)