鈴木:この「使われなかった寝室と子供部屋」から得た教訓は何かというと、二世帯住宅の場合、子世帯と子世帯の間に親世帯と挟むようなサンドイッチ形式はダメだということ。家族の仲が良いとか悪いとかそういうのとは関係なく、単に移動距離の長くなるプランは、不便だから部屋が使われなくなる。
藤山:さっきの炊飯器もガレージも、理由は同じでしたよね。便利だから使う、不便だから使わない。
鈴木:結局、そこなんだよ。ちょっとした便利と不便が、人間の行動を大きく左右してしまう。
藤山:便利と不便ね……。ところで、「つくったけど使われなかったもの」の例として、よくこんな話があるじゃないですか。いまは田舎に両親が健在だが、どちらかが亡くなれば子供夫婦が引き取ることになるかもしれない。だから、新築のときに親の部屋も一部屋つくっておきたいというパターン。あれって、実際はどうなんですか?
鈴木:うちのクライアントに関していえば、少なくとも親と一緒に住むようになったというケースはいまのところ聞いていないね。
藤山:1件もない?
鈴木:ないみたいだよ。やっぱり住み慣れた土地を離れて東京のほうに引っ越してくるというのは、歳をとるとなかなか勇気のいる選択なんだよ。
藤山:では、親の部屋をつくる必要はないですか?
鈴木:いらないと思う。そもそも、どうして親の部屋が話題に上るかというと、そこには資金援助が絡んでいることが多いの。新築の計画が具体的に進み、間取りもそろそろこれで決まりかなという頃になって、「いやー、実は親のことなんですけどね」って話が唐突に出てくる。それまで、親御さんに関する要望なんて一切出ていなかったのに。
藤山:資金援助を受けた途端に、急に気になり始める?
鈴木:そう。お金をいくらか出してもらうのだから、親の部屋も一部屋くらいつくっておかないとマズイかなって気になるんだね。
藤山:気持ちは分かりますね。で、鈴木さんはどうされるんですか? そういう急な話。
鈴木:図面がほぼ出来上がった段階で一部屋追加するのは厳しいから、まず、将来のシミュレーションしてあげる。敷地が広ければ、「建蔽率にまだ余裕があるので、万一のときは庭先に離れを一つつくれますね」とか。そう言うとたいていの人が、「じゃあ、それでいいか」って(笑)。
藤山:笑顔で帰っていく。
鈴木:そういう「○○かもしれない」に属する要望はたくさん出るけど、それにいちいち応えていたら、いくら部屋があっても足りない。大事なのは、慌てて一部屋追加することではなく、実際「そういうこと」になった際、わが家はどういう対応が可能かをきちんとシミュレーションしておくこと。
藤山:部屋というハッキリした形で対応するのは、間取り全体にも影響を与えますよね。