ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第36回】日本の寝室は絵にならない(4)

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悩みリフォームレビュー

鈴木:あのね、そういうこと言うと、いまの時代、一瞬でボコボコにされるから気をつけたほうがいいよ(笑)。でもまあ、あまり大きな声では言えないけど、一から十まで子供に気を使いすぎるというのは、結局は子供のためにならないよね。

藤山:日本は「大人の文化が成熟していない」ってよく言われますが、それって家づくりにも大いにつながっているわけですね。

鈴木:日曜日のお父さんなんて、ホント大変そうだから。午前中は上の子のサッカーの練習に付き合い、午後は下の子のピアノの発表会に行き、そのあと自宅でお誕生会をやり……空いた時間に新築の設計打ち合わせ。子供に振り回されてヘトヘトになっている姿が痛々しくもある。

藤山:本人が楽しければそれでもいいのかもしれませんが……。でも、子供にとって都合のいい大人って、実は子供から見るとただのつまらない大人だったりしません?少なくとも、自分が子供の頃は、そう思いながら都合のいい大人を見てましたけど。

鈴木:大人から子供のほうに降りてくると、子供としては鬱陶しいなと思うよ。だから子供が正直に、「お父さん、鬱陶しいからアッチ行って」と言うと、「どうしてお父さんのこと鬱陶しがるの? ねえねえ」って、余計に鬱陶しくなる。

藤山:(笑)

鈴木:そもそも寝室をどうするか以前に、大人が大人としてどう振舞うかという問題を考えなきゃいけないってことだよ。子供との付き合い方も含めて。

藤山:そう思います。

鈴木:さっきのホームドラマの話ではないけど、「家族で食卓を囲んでの一家団欒」。これが、幸せな家族の典型的なイメージだとしたら、われわれはその幸せ像をいったん疑ってみてもいいのかもしれない。それは、いつの間にか刷り込まれてしまった幸せの1パターンでしかない。

藤山:間取りでいえば、広めのLDKに子供部屋が2部屋あって、親の寝室は寝るだけのスペース。それって、あまりにも定型に過ぎますよね。

鈴木:でも、「それが家なんだ」って刷り込まれているんだよ。間取りに正解なんてないのに……。

藤山:ただ、自分なりの正解を見つけた間取りも、ほかの家と違い過ぎるとやっぱり不安に襲われる。

鈴木:以前にも話したと思うけど、そういう局面で迷ったとき、設計者の提案にうまく乗れる人ほど、結果的に満足できる家づくりができている。事前に刷り込まれた「良い間取り」や、刷り込まれた幸せのかたちと思い切って決別できるかどうかに、良い家をつくる秘訣が隠されているんだけどなぁ。

藤山:ええ。

鈴木:自分自身、寝室の扱いについてはこれまであまり意識的ではなかったけど、逆にいえば寝室ってまだまだ手つかずの空間だから、建築的に面白くできる余地はたくさん残されているような気がする。

藤山:欧米の寝室とはまた違った、日本的な新しい寝室の提案ができるかもしれませんね。

鈴木:将来的には子供中心ではなく、親の空間も大切にしないと家全体として楽しくなりませんよという提案が、どこかのハウスメーカーから出てくるかもしれない。

藤山:2020年あたりに寝室ブームがきますかね。

鈴木:それはどうかな(笑)。

藤山:もし鈴木さんが、お客さんに「寝室を大人の空間として、もっとしっかりつくりませんか」と提案したら、どんな反応が返ってくると思います?

鈴木:戸惑うだろうね。優先順位の一番下のほうにある話を突然目の前にもってこられたら、「は?」ってなると思うよ。「いや、寝るだけでいいですから」って事務的に返されそう。でも、リフォームなら大丈夫かもしれない。実際、子供が独立して夫婦だけの家をリフォームするときは、別荘みたいな空間をつくったりするからね。夫婦だけのリフォーム案件から、そういう提案も少しずつしてみるかな。

(おわり)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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