ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第35回】日本の寝室は絵にならない(3)

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藤山:寝室と聞いてパッと思い浮かぶイメージって、日本の家より外国映画のワンシーンだったりしません?

鈴木:うん、分かる。

藤山:夫婦が寝室で寝ていたら、真夜中に枕元の電話がジリジリっと鳴って、奥さんは寝ているんだけど隣の旦那が手を伸ばして電話を取る。すると警察からの電話で、旦那は非番なのに殺人事件の捜査に呼び出されました、みたいな。そういうシーン。

鈴木:刑事ものだね。どこかで見たことあるような気がする。

藤山:でしょ?私も見たことあるような気がします。いまのは適当なつくり話ですけど(笑)。でも、同じシーンを、畳にふとんを敷いただけの殺風景な日本の寝室で撮ったとして、果たしてその画はもつのかという問題がある。

鈴木:あまり格好よくはならないだろうね。

藤山:ブラッド・ピットでも無理でしょう。

鈴木:ふとんで寝るブラピ(笑)。

藤山:逆に見てみたいですけど。

鈴木:コメディとしてはね。

藤山:ふとんで寝ていても違和感がなさそうなのは、ウディ・アレンだけです(笑)。

鈴木:まあ、欧米の寝室が映画やドラマの舞台として画になるというのは、一にも二にも寝室が部屋としてしっかりつくられているからに尽きるよ。

藤山:プライベートな空間として。

鈴木:そこはもう、文化の違いだからどうしようもない。彼らは寝室の隣に専用の浴室やトイレを付けるのが当たり前なんだから。日本の住宅にそういう設計ってほとんどないでしょ?

藤山:日本の場合、ドラマの舞台は主に食卓ですよね。だいたい、みんなそこでガヤガヤしゃべっている。

鈴木:昔のTBSのドラマみたいな。

藤山:そうそう。「寺内貫太郎一家」とか、「時間ですよ」とか。

鈴木:食卓に集まる人々の団欒をカメラがとらえるというのが、日本のホームドラマのセオリーなんだろう。

藤山:寝室で思い出すのは小津安二郎の「晩春」くらいですかね。といっても、あれは笠智衆と原節子が旅館のふとんの上でしゃべるわけだから、厳密には寝室ではないですけど。

鈴木:要するに、日本の住宅の寝室は「大人の空間」として全然確立されていないんだよ。だから、空間としての面白さや存在感がなきに等しい。そりゃそうだよね、寝るだけなんだから。

藤山:ちょっと大きめの寝袋と一緒。

鈴木:でも、そうなるのは当然だと思う。いまの家づくりって、大半は親より子供を重視した設計になっているなと日々感じているもの。子供のいる世帯は、必ず子育てに特化した家づくりに傾いていく。何でも子供優先で考えていくのだから、親の寝室なんて後回しになるのは当然。

藤山:家づくり=子育ての家?

鈴木:ざっくりいえば、そういうこと。

藤山:子供の教育で頭がいっぱいなんでしょうね。

鈴木:教育もそうだけど、なんでもかんでも物事を子供中心に進めすぎではないかと、ときどき心配になる。こう言うと怒られそうだけど、子供にやたらと気を使う親御さんが多いのはその現れだろうね。新築の打ち合わせに家族全員で参加されるときなんて、子供に気を使う親と、それをうざがる子供というシーンをよく目にするもの。

 

藤山:目に浮かぶようです。

鈴木:「○○ちゃん、これでいいかな?」って、親のほうから間取りや収納の良し悪しをいちいち確認していくの。すると子供のほうは、そのつど面倒くさそうに「いいんじゃないの」ってボソッとつぶやく。

藤山:それこそ、日本のホームドラマで似たようなシーンを見たことがあります。言い方は悪いですが、子供ってもっとぞんざいに扱ってもいいのではないかと思いません?彼らだってバカじゃないんだから、いちいち気を使わなくたって、言いたいことがあれば言うだろうし。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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