ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第34回】日本の寝室は絵にならない(2)

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鈴木:そういえば、昔こういう話があった。出来立てほやほやの家に引っ越したお客さんから、「フローリングがカビだらけになっちゃいました」って電話があったの。慌てて駆けつけたら、フローリングの上にふとんを敷いて寝ていたのが原因だった。

藤山:なんで、フローリングの上にふとんを敷くんです?

鈴木:本来はベッドに寝る予定で引っ越し前にベッドを購入したらしいんだけど、それがまだ届かないものだから、届くまでの間、フローリングの上にふとんを敷いて家族4人、川の字になって寝ていたんだって。そうしたら、板が汗を吸い込んで一気にカビが生えちゃった。

藤山:そりゃそうでしょう。

鈴木:無垢材の良質なフローリングだったんだけど、カビだけじゃなく、板が1枚ずつ全部Uの字に反っていた。

藤山:UUUUU……って。

鈴木:あと、こういう話もあったよ。

藤山:はい。

鈴木:あるお客さんから、「基本的にはベッドよりふとんが好きなんだけど、寝起きするにはベッドみたいに段差があったほうがラクだから、和室に300㎜くらいの小上がりをつくってほしい」とリクエストされたの。

藤山:造付けの畳ベッド。

鈴木:そう、まさにそんな感じ。たんなる小上がりと言われればそれまでだけど、これが意外と好評でね。「以前、こういう畳ベッドをつくったことがあるんですよ」って、ほかのお客さんにも紹介したら、「それ、うちにもつくってほしい」とよく言われるようになった。

藤山:ベッドといえば、主寝室にベッドを置く場合、お客さんたちの傾向として何サイズのベッドを置かれることが多いですか?

鈴木:シングルサイズを2つ並べるか、セミダブルを2つ並べるか……。いや、シングルとセミダブルを1つずつ並べる家もけっこう多いかな。子供が小さいうちはお母さんと一緒に寝たがるから、1つはセミダブルくらいがちょうどいいんだね。ごく稀に、キングサイズを買われている家があるけど、そういうのはたいてい若い新婚さんで、「つい、いきおいで買っちゃいました」という人。

藤山:鈴木さんの設計では、寝室にクローゼットを設けることが多いですか?

鈴木:クローゼットは寝室の隣に「部屋として」設けることが圧倒的に多い。寝室にクローゼットがある家は少ないかな。ときどき、母の代から使っている三面鏡を置きたいという方がいらして、その場合はもちろん置けるスペースを設けるけど、基本的にはベッドが置いてあるだけのシンプルな寝室にしている。

藤山:まさに、寝るだけですね。

鈴木:寝るとき以外はリビングで過ごしているという家庭がほとんどだから。

藤山:逆に、打ち合わせの初期から寝室の設計にこだわりを持っているお客さんもいらっしゃいます?

鈴木:それはほとんどないけど、あるお客さんから、軽井沢の「星のや」に泊まったら客室の感じがものすごく良かったから、うちも同じような寝室にしてほしいと言われたことはある。

藤山:あっ、それ、ほかの設計者からも聞いたことがあります。「星のや」みたいにしてほしいって話。具体的に何が良いと言われるんですか?

鈴木:建築的にどうこうではなく、「手の届きそうな非日常性」みたいなものが大きいんじゃないかな。ベッドの上に洗濯物が積み上がっているとか、飼っている猫がその上で吐いているとか(笑)。そういう日常から開放されるのが、旅先の宿のもつ大きなアドバンテージじゃない?そういうバイアスがかかって、客室に実際以上に良い印象をもってしまっている気がする。「○○ホテルみたいに」って要望される人は、大なり小なりそういう部分があるよ。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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