ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第31回】局地的、子供部屋トレンド情報(3)

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鈴木:少なくとも小学生のうちは、リビングやダイニングで勉強をさせるのがいまのトレンド。勉強をするというより、親に見守られながら「勉強をする習慣を身につけさせられる」といったほうが正確かな。そういう家庭がやたらと増えてきたね。だから、「子供部屋は寝るだけでいい」となる。

藤山:子育て系、教育系雑誌の影響でしょうか。

鈴木:そうでしょう。「有名進学校に入った子供を調査すると、ほとんどの子がリビングで勉強をしていた」とか、「リビングのような騒々しい環境のなかで勉強させると集中力が身につく」みたいな記事を読むと、じゃあウチもそうしなきゃって、ある種の強迫観念にとらわれる。

藤山:要は、個室に放り込むとロクなことはない、と。

鈴木:そりゃ、ロクなことないだろう。

藤山:まあ、昔の自分を思い起こせばよく分かります(笑)。

鈴木:小さなお子さんをもつ親御さんと話していると、「子供はこうして勉強させろ」みたいな話題をよくご存じで、本当に感心させられるよ。

藤山:子供にとってはいい迷惑ですが(笑)。

鈴木:あとは、一家団欒というものの考え方が変わってきたというのも理由になるかな。

藤山:といいますと?

鈴木:子供部屋を狭くする分、逆にリビングやダイニングを広くするわけ。その背景には、家族みんなで一緒に過ごす時間を大切にしたいという意識の現れがあるのだと思う。よく言われる話だけど、特に震災以降はそういう雰囲気がずっと続いている。

藤山:リビングやダイニングの面積を広げつつ、ついでに子供が勉強できるスペースを設けたりもするんですか?

鈴木:お母さん用のワークスペースを、子供の宿題を見てあげられるようなかたちにつくるとか、ダイニングテーブルを勉強ができる場所に想定しておくとか。そういう工夫はよくやりますね。ただ、現実的には、中学生くらいになると家では勉強しなくなるんだよ。

藤山:どこでするんですか?

鈴木:塾。

藤山:ああ、そうか。塾か。

 

鈴木:それ以外だと、図書館とか公共施設の自習スペースとか。勉強は外で全部済ませるようになる。そうなると、「家で勉強」の比重はどんどん軽くなっていくよね。どちらかというと、家は休憩しに帰ってくる場所に変わる。

藤山:仕事から帰ってくるみたいな。

鈴木:そうそう。夜中に疲れて帰ってくるお父さんと一緒。あとはご飯を食べて寝るだけ。

藤山:だから、子供部屋は寝るスペースさえあればいいわけか。

鈴木:そういうこと。もう一つは、「いい部屋を与えてしまうと子供が部屋の中に引きこもってしまうから」という理由もあるよね。だから子供部屋は狭くていいんだ、と。

藤山:前回のニートの話につながりますね。

鈴木:はっきりとそういう要望をされる親御さんは多いよ。「引きこもられると困るから狭くていいです」って。

藤山:実際、そのねらいは効を奏してます?

鈴木:さあ、どうだろう。うちの事務所の例だと、いちばん大きなお子さんでもまだ20代前半だから、もう少し時間が経ってみないと分からないね。考えてみたら、最初からニートの人がいる家は設計したことがあるけど、新築で設計した家のなかからニートや引きこもりになった人が輩出された例はまだないかも。

藤山:それはよかったです。

鈴木:あ、いや……。

藤山:いや?

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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