
藤山:前回からの流れで、きょうは子供部屋について考えてみたいわけですが。
鈴木:10年くらい前に、お受験用の子供部屋をつくったことがあります。
藤山:受験に特化した子供部屋ですか。
鈴木:娘さんを某有名小学校に入れたいという弁護士のご夫婦がいらっしゃって。その小学校の試験に運動能力を見る項目があるので、新築のとき試験対策となるような子供部屋をつくるよう依頼されました。
藤山:どういう試験対策ですか?
鈴木:太さ40㎜くらいの木の棒につかまって自力で昇って降りてくるという試験があるので、試験で使うのとまったく同じタモの棒を子供部屋に取り付けてほしいといわれて……。
藤山:子供は毎日その棒を昇ったり降りたりして特訓する。
鈴木:そういうこと。ぱっと見はポールダンス用のポールにしか見えないけど。
藤山:お受験って、そこまでやらないと受からないんですか。
鈴木:相当真剣だったよ。ちなみに、その家は受験対策として家庭教師兼家政婦さんを雇われていたかな。その小学校に送り込む必勝ノウハウをもったプロの家庭教師が、家政婦としても働いてくれるらしい。月額いくらかは忘れたけど、相当高額だった記憶がある。
藤山:へえ。
鈴木:噂には聞いていたけど、そういう家ってやっぱりあるんだなと思った。
藤山:で、お受験はうまくいったんですか?
鈴木:受かったみたい。
藤山:棒のおかげで。
鈴木:3%くらいは(笑)。あと、子供部屋とは関係ないけど、その家でもう一つ驚いた話があって……。
藤山:何ですか?
鈴木:ドアノブとか丁番とか引手とか、建具に付ける金物ってあるじゃない?あれは普通、インテリア全体の色や質感に合わせて選んでいくと思うんだけど、その家の場合、無難にシルバーを提案したら、「そこは当然ゴールドでしょ!」って返された。
藤山:銀より金。
鈴木:ゴールドがあるなら、もちろんゴールドに決まっているじゃないですかと言われてびっくりした。色ってそういう観点で選ぶ人もいるんだなって。
藤山:もはや、デザインの向こう側の話ですね。
鈴木:ですね。
藤山:そのほかに、思い出に残る子供部屋って何かあります?
鈴木:子供部屋単体では、そんなに変わったものを設計した経験はないなぁ。
藤山:では、思い出に残る親子とか。
鈴木:ああ、親子……。お母さんが一人で住む家を建て替えたことがあった。
藤山:お子さんは?
鈴木:娘さんが2人と息子さんが1人。娘さんは2人とも嫁いでいて別のところに住んでいる。息子さんは大学を出たあと就職しないでフリーターをやっていて、都内のアパートに一人暮らし。旦那さんを早くに亡くされたので、お母さんはずっと一人暮らしなわけ。
藤山:ええ。
鈴木:だから、お母さんとしては、いま住んでいる家を建て替えて、ゆくゆくは二世帯住宅として使えるようにしておけば、フーテンの息子がそのうち帰ってきて、一緒に住んでくれるかもしれない。息子が結婚すれば、息子夫婦と同居できるかもしれない。そういう目論見があったわけ。
藤山:息子を呼び戻すための建て替えですか。
鈴木:そういうこと。
藤山:間取りは、いわゆる二世帯住宅の間取りで?
鈴木:いや、そこまで露骨な感じにはしなかった。それ以前に、お母さんからまず要望されたのが、3台分の駐車場。
藤山:一人なのに?
鈴木:お母さんのクルマは1台だけど、子供たちの駐車場もつくっておかないと、クルマを止める場所がないという理由で、誰も帰ってこなくなるからって。
藤山:ああ、それは一理ありますね。
(つづく)