ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第64回】なぜ、たいていのキッチンリフォームは 50点止まりなのか(4)

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悩みリフォームレビュー

藤山:新築のとき、鈴木さんに設計を依頼された家族が、リフォームでは別の家族になっているわけですか。

鈴木:旦那さん以外はね。

藤山:たしかにそういうパターンも、なくはないでしょうね。

鈴木:要するに、奥様が交代するとその家は何が変わるかという話。

藤山:何が変わるんですか?

鈴木:真っ先に「キッチンを変えてくれ」と頼まれる。

藤山:へえー、面白い。

鈴木:その家の場合、新築のときはアイランドキッチンで収納は全部扉付きの壁面収納。最初の奥様からは、「なるべくモノを見せたくない」といわれていて、収納に全部扉をつけた。いまふうのデザイナーズっぽい白いキッチン。

藤山:はい。

鈴木:でも、その8年後くらいに次の奥様に交代。すると、「このキッチンは全然使えない」と旦那さんが文句を言われたらしい。自分の料理のつくり方では不便すぎると言われたんだって。

藤山:ええ。

鈴木:最初の奥様と次の奥様、最大の違いは何だったかというと、新しい奥様は料理を出汁から取ってつくるような方だったの。かつおぶしを削って出汁をとって椀物をつくるみたいな。すべての調理を素材から始める。これに対し、前の奥様は出来合いのものを買ってくることが多い方だったらしい。

藤山:作業工程が多い人にとっては、すべての収納に扉がついているようなキッチンは出し入れが面倒で使いづらいでしょうね。

鈴木:だからリフォームが必要になる。「鍋釜は全部オープン収納、すぐ手が届くように」「それ以外のものも、パッと取れる位置に納められるように設計変更」「アイランドキッチンはやめて、片方を壁にくっつけること」。そんなキッチンリフォームになった。面白いのは、もう一軒似たようなケースがあったんだけど、そのときもまずキッチンをどうにかしてほしいという話だった。

藤山:人が変わればキッチンも変わる。いや、変えざるを得ないってことですか。

鈴木:注文住宅の場合、そこに住む人の意向に沿って設計していくわけだから、住む人が変わればいろいろ不都合が出てくるのは当然といえば当然だけど。

藤山:ま、そうか。

鈴木:最初、その旦那さんから「部分的にリフォームしたい」といわれたとき、まず思ったのは、トイレ・洗面室・浴室といった水廻り、あるいは寝室みたいな以前住んでいた人の記憶やにおいが濃厚に残っている部分を消し去るのが目的なのかなと想像していたの。でも、考えてみたら、そういう場所で行われる行為って、個人個人の個性ってほとんど出ないわけ。

藤山:トイレで個性的に用を足す人はいませんからね。

鈴木:いたら、見てみたい(笑)。でも、キッチンは個性のかたまりみたいな場所だから、記憶とかにおいみたいな漠然とした嫌悪感以前の問題として、日常生活に具体的な支障をきたす。

藤山:なるほど~。その発見、何かビジネスチャンスにつなげられないですかね。

鈴木:なに、それ。

藤山:たとえば、結婚相談所みたいなところと組んで、「再婚が決まったらまずキッチンリフォーム」みたいな売り文句で、再婚者用のキッチンリフォームを提案するビジネス。

鈴木:なんか重いな、その仕事(笑)。

(おわり)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

 

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