藤山:最初から「見せる棚」としてつくるわけですか。
鈴木:棚としての敷居を高くするというのかな。気軽に日用品を置けない雰囲気をつくる。そうすると、キッチンが特別でお気に入りの場所に変わる。もちろん、私のほうから「ここに塩は置かないでくださいね」なんて言わないよ。でも、みなさんちゃんとその棚は飾り用の棚として扱ってくれる。
藤山:へえー。
鈴木:昔、キッチンの窓の下にオープンの収納棚をつくったことがあったの。本棚みたいな棚を3段。で、竣工後1年経ってその家にうかがったら、3段あるうちのいちばん上、視線の高さに近い棚だけは表紙が英語で書いてある洋書の料理本と趣味の小物が置いてあった。
藤山:見栄えがよくなるように。
鈴木:そう。下の棚は、「きょうの料理」みたいな超実用的料理本ばかりなのに。
藤山:分かります、その感覚。
鈴木:洗面室の棚もそうなんだよね。パッケージがかっこいい高級な化粧品は、みんな目の高さに置いてある。
藤山:誰に見せるでもなく、自分のために飾っている。
鈴木:そうだろうね。もちろん、視線の高さにザルだのボウルだのが置いてあれば、使い勝手は抜群だけど、それでは気分が一向に上がらない。
藤山:うちはザルもボウルも置いてます(笑)。
鈴木:じつはわが家のマンションもそうなの(笑)。もともと、視線の先に何かを飾れるような設計にはなっていなかった。
藤山:ということは、最初の設計が悪ければ、どうあがいても気分が上がるキッチンにはならないということですか?
鈴木:いや、その場合でもお気に入りの鍋やフライパンをいちばん目に入る場所に置いてやるだけで、雰囲気は一変する。調理道具に凝っている人なら、趣味と実益を兼ねた最高の収納になるかもしれない。
藤山:じゃあ、まずは格好いい鍋を買いに行くところから始めます。
鈴木:そういえば、キッチンで思い出したんだけど。
藤山:ええ。
鈴木:自分が新築の設計をした家から、何年か経ってリフォームを依頼されることがあるじゃない?
藤山:ありますね。家族の人数が変わったときとか。
鈴木:これまで2度ほど珍しいことがあった。新築のとき一緒に住んでいた奥さんと別れて、その後別の人と再婚した旦那さんから、新築で設計した家をリフォームしてほしいと頼まれたの。
藤山:なんか、すごい話ですね。
(つづく)
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