ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第63回】なぜ、たいていのキッチンリフォームは 50点止まりなのか(3)

空間
キッチン
関心
悩みリフォームレビュー

藤山:キッチンでの気分を上げる方法はほかにもあります?

鈴木:光の次は視線かな。キッチンに立ったとき、いちばん目に入りやすいゾーンを大切に扱う。簡単にいえば、視線の高さ近くに日用品を置かないような設計にするわけ。塩、砂糖、七味唐辛子が並ぶようなゾーンを目に入りやすい高さにつくらない。

藤山:うちは、まさにその高さに塩があります(笑)。

鈴木:その手のものは、もう少し下にあっても使い勝手は変わらない。

藤山:でも、棚があるとつい置きたくなりません?

鈴木:そう思うじゃない?だけど、その棚の下に照明を仕込んで、下から光を当ててやると、その棚には誰も塩を置かなくなる。代わりに、趣味の小物なんかを置いて積極的に飾り始める。

藤山:最初から「見せる棚」としてつくるわけですか。

鈴木:棚としての敷居を高くするというのかな。気軽に日用品を置けない雰囲気をつくる。そうすると、キッチンが特別でお気に入りの場所に変わる。もちろん、私のほうから「ここに塩は置かないでくださいね」なんて言わないよ。でも、みなさんちゃんとその棚は飾り用の棚として扱ってくれる。

藤山:へえー。

鈴木:昔、キッチンの窓の下にオープンの収納棚をつくったことがあったの。本棚みたいな棚を3段。で、竣工後1年経ってその家にうかがったら、3段あるうちのいちばん上、視線の高さに近い棚だけは表紙が英語で書いてある洋書の料理本と趣味の小物が置いてあった。

藤山:見栄えがよくなるように。

鈴木:そう。下の棚は、「きょうの料理」みたいな超実用的料理本ばかりなのに。

藤山:分かります、その感覚。

鈴木:洗面室の棚もそうなんだよね。パッケージがかっこいい高級な化粧品は、みんな目の高さに置いてある。

藤山:誰に見せるでもなく、自分のために飾っている。

鈴木:そうだろうね。もちろん、視線の高さにザルだのボウルだのが置いてあれば、使い勝手は抜群だけど、それでは気分が一向に上がらない。

藤山:うちはザルもボウルも置いてます(笑)。

鈴木:じつはわが家のマンションもそうなの(笑)。もともと、視線の先に何かを飾れるような設計にはなっていなかった。

藤山:ということは、最初の設計が悪ければ、どうあがいても気分が上がるキッチンにはならないということですか?

鈴木:いや、その場合でもお気に入りの鍋やフライパンをいちばん目に入る場所に置いてやるだけで、雰囲気は一変する。調理道具に凝っている人なら、趣味と実益を兼ねた最高の収納になるかもしれない。

藤山:じゃあ、まずは格好いい鍋を買いに行くところから始めます。

鈴木:そういえば、キッチンで思い出したんだけど。

藤山:ええ。

鈴木:自分が新築の設計をした家から、何年か経ってリフォームを依頼されることがあるじゃない?

藤山:ありますね。家族の人数が変わったときとか。

鈴木:これまで2度ほど珍しいことがあった。新築のとき一緒に住んでいた奥さんと別れて、その後別の人と再婚した旦那さんから、新築で設計した家をリフォームしてほしいと頼まれたの。

藤山:なんか、すごい話ですね。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

 

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