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【第62回】なぜ、たいていのキッチンリフォームは 50点止まりなのか(2)

空間
キッチン
関心
悩みリフォームレビュー

藤山:キッチンは、なにはなくとも明るいことが大前提?

鈴木:他人から見て、「ああ、片づいていないな」と感じるキッチンでも、もしそこが薄暗いのなら窓を設けて光を入れてやるだけで、不思議とそういうネガティブな印象が緩和される。キッチン周りにあふれている雑多なものも、隅の暗がりに置かれていると見るに堪えないけど、窓辺に置かれていると案外素敵に見えたりすることがある。そこに光のマジックがある。

藤山:それ、いつ気づいたんです?

鈴木:15年くらい前かな。平屋のお宅をリフォームしたとき、北側のキッチンがあまりに暗かったからトップライトをつけたの。すると、夏は当然暑くなるけど、それを補って余りあるくらいキッチン全体に光がブワーッと広がって、とても同じキッチンには見えなくなった。その日から、その家の中でキッチンがいちばん「いい場所」になったんだよ。いい場所には人が自然と集まるから、家族みんなでごはんをつくるようになったり、友達を呼んでパーティーをするようになったり、リフォーム前は夢にも思わなかったようなことが次々と起こり始めたわけ。

藤山:キッチンが変わって人が変わった。

鈴木:そういうことがあったの。以来、「気分アップ」や「スペシャル」といったテーマを、設計で意識するようになったような気がする。

藤山:逆にいえば、いくら機能的なキッチンでも暗ければ意味がない。

鈴木:そういうこと。さっきのセミナーでも、「うちの会社でリフォームした事例です」といって受講者が写真を見せてくれるわけ。そのとき私が何を見ているかというと、キッチンを撮影するとき室内の照明をつけているかいないか。昼間でも照明をつけないと写真が撮れないようなキッチンは、その時点で大減点。では逆に、そのほかはものすごくよくできているけれど、唯一明るさだけが足りないキッチンがあるかといえば、それは皆無。最初から明るくつくられているキッチンは、機能性や動線など、ほかの要素にもうまく配慮されていることが多い。というわけで、意図的にやっている設計は別として、暗いキッチンはたいてい何もかもダメ(笑)。

藤山:自然光がコントロールできる設計者は、ある程度腕のある設計者と考えていいでしょうからね。鈴木さんの場合、光はどのように取り入れることが多いですか?

鈴木:窓を設けるときは、横長の窓を低い位置につけるのではなく、天井面まで窓を延ばす。そうすると、外からの光がうまく回って光が広がる。私だけでなく、分かっている人はたいていそういう窓の取り方をしているよ。どうしても横長にしたい場合は、それはそれでやり方があるけど……。

藤山:そういう光の要望って、お客さんからは絶対に出ないでしょ?

鈴木:キッチンに関する要望はほとんどが収納。お客さん自身も、まさか自分がキッチンに立ちたくない理由が、「薄暗いこと」にあるとは想像すらしていない。

藤山:「もうキッチンには立ちたくない」と叫んでいたお客さん、リフォーム後はどうなっています?

鈴木:面白いのは、用もないのにキッチンに居たがる人が増えるってことだね。「最近は窓辺に雑誌を持って行って読んでます」ってメールがきたり。「えっ、あの人が?」って感じ(笑)。

藤山:光の効果は絶大だ。

 

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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