ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第61回】なぜ、たいていのキッチンリフォームは 50点止まりなのか(1)

空間
キッチン
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悩みリフォームレビュー

藤山:鈴木さんは何年か前まで、工務店経営者向けのセミナーを全国でやられていましたよね。「顧客満足度を上げる方法」みたいなテーマで。

鈴木:ああ、INAXさんのセミナー。

藤山:そういうセミナーにいらっしゃる受講者って、どんなところに弱点を抱えているものなのですか?

鈴木:たとえば、あるお客さんからキッチンのリフォームを依頼されたとするじゃない。で、その会社がリフォーム専門の会社だったら、そこの営業担当は古くなったキッチンを新しいキッチンに交換することにしか関心がない。お客さんがキッチンを前にして日々悩んでいることや叶えたい夢には全然気がつかない。

藤山:気がつかないというか、気づこうともしていないというか……。

鈴木:セミナー受講者にもそういうタイプの工務店が多くて、自分からはお客さんの要望に気づかない。だから、「どうしたいですか?」って逆にお客さんに聞いちゃう。

藤山:いわゆる「お客様のご要望に何でもお応えします」ですね。「自分からは提案しません」の言い換え(笑)。

鈴木:お客さんがしっかりした方ならそれでもいいわけ。今度はゴミ置き場のスペースをきちんととりたいとか、調理器具の収納場所を変えたいとか、いまのキッチンのダメなところが分析できている人は、きちんと意見が出る。でも、特に意見が出ない――出ないというより「出せない」お客さんは、工務店側もどうしてよいか分からないから、新しいキッチンをポン付けしてさっさと終わろうとする。

藤山:それでは根本的な部分は何も変わらない。

鈴木:ほぼ5年以内に元の状態に戻る。なかには、造付けの棚を提案したり、散らかっているキッチンがリビングから見えないようなプラン変更を提案したり、それなりに工夫している会社もあるけど……。

藤山:きっと、それだけではまだ不十分なんですよね。

鈴木:まだ足りないね。キッチンのポン付けリフォームが20点としたら、せいぜい50点くらい。

藤山:残りの50点は何でしょうか?

鈴木:「いかにお客さんの気持ちを盛り上げてあげられるか」。それができて初めて100点のリフォームになる。収納量が満たされるとか、使い勝手がよくなるとか、それらはあくまで低下した機能の回復であって、生活の質的向上にはほど遠い。飛距離が全然出ていない。

藤山:鈴木さんが普段「設計には気分アップの要素が重要」と言われている部分ですね。

鈴木:だって、奥様から「うちのキッチンにはもう立ちたくないんです」と言われるんだよ。

藤山:お客さんがですか?

鈴木:そう。キッチンに立ちたくないって。友達同士の普段の会話でも、キッチンに立ちたくないよねぇという話はよく出るらしい。

藤山:原因は何でしょう?

鈴木:暗いから。

藤山:ほう。窓がないとか?

鈴木:そうそう。機能的な不満が渦巻いているところに、追い打ちをかけるように「光が入らなくて薄暗い」という環境が重なると、「うわー、もうこんなキッチン立ちたくないぞー」って発狂する(笑)。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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