ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第60回】私のキッチン、ここにこだわりました(4)

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藤山: 鈴木さんご自身は、キッチンを設計する際のこだわりってあるんですか?

鈴木:最近は、男性もキッチンに立つ家庭が増えてきたじゃない?そうなると、キッチン廻りのあれこれに男性目線で新たな気づきが生まれていると思うんだ。

藤山:女性とは違った視点で。

鈴木:皿を洗って置く場所はこうしたほうがいいとか、調理道具の置き場所を変更したほうがいいかもしれないとか。細かなことが気になり始めるわけ。食器棚のガラス扉は意外と汚れるなとか。

藤山:賞味期限切れのものがいっぱい溜まっているなぁとか。うちの話ですけど(笑)。

鈴木:パナソニックのCMに出ている俳優が、「教えてあげたい」って言っているじゃない。

藤山:西島秀俊。

鈴木:あれがすべてを物語っているような気がする。男性が女性に教えてあげるという図式。男性が家事を語り始めるようになったわけよ。

藤山:ええ。

鈴木:そうなると、キッチンのつくり方もおのずと変わってくる。

藤山:そうですか。

鈴木:いちばん大切なのは、「2人で同時に立てるキッチン」。これを意識しておかないといけない。2人同時に立てるとはどういうことかというと、動線に行き止まりをつくってはいけないということ。

藤山:ほう。

鈴木:どちらかが奥に追い込まれると、キッチンから出られなくなるでしょう。

藤山:新幹線の窓側の席みたいな。

鈴木:そうそう。手前の人がいったん立たないとトイレに行けないようにね。そういう状態は作業の効率を悪くするから、どちら側からでも移動できるようにしておきたい。いわゆる「サーキュレーションキッチン」が、これからは絶対必要になってくる。

藤山:それが、今後のキッチンのスタンダードであり、鈴木さんのこだわりですか。

鈴木:かな。

藤山:そういう提案をすると、奥様方は喜ばれるんじゃないですか?

鈴木:喜ばれる人と、えっ?って顔をされる人がいる。「えっ、旦那がキッチンに入ってくるの?」って(笑)。

藤山: 私のテリトリーなのに。

鈴木:どちらかというと、にやっとする人のほうが多いかな。〈しめしめ、これで旦那に手伝わせやすくなったぞ〉と、たくらんでいる。旦那さんのほうは〈まいったな〉って顔してるけど。

藤山:旦那さんの気持ち、よく分かります。

鈴木:だけど、せっかく行き止まりのない、両方から出入りできるキッチンをつくったのに、しばらくすると一方をふさいでしまった奥様もいらした。

藤山:どうしてまた。

鈴木:60代のご夫婦なんだけど、使うのは常に奥様だけだから、通り抜けられるスペースがあるより、モノが置ける台があったほうが便利だからって。

藤山:1人で使うのが前提ならそれもありですね。結局キッチンのかたちって、その家の人間関係が如実に表れる場所ってことなのでしょう。

鈴木:そういえば知ってる?最近の幼稚園はお父さんがお弁当をつくる日というのがあるらしいよ。

藤山:そうなんですか。

鈴木:「お父さんがお弁当をつくるデー」だって。うちのスタッフの旦那さんも、奥様(スタッフ)ご指導の下、2人でキッチンに立ってキャラ弁をつくらされたらしい。

藤山:物騒な世の中になりました(笑)。

(おわり)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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