ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第59回】私のキッチン、ここにこだわりました(3)

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藤山:もう一方のこだわりである「使い勝手にこだわる」。これにこだわってつくられたキッチンには、どのようなものがありました?何十年もキッチンに立ってきた人が、これぞ究極のキッチンと豪語するような。

鈴木:すごく地味な話だけど……。

藤山:いいですねぇ。地味な部分にこそ、本質が隠れてますよ。

鈴木:シンクで洗った野菜をワークトップの上に置くと、野菜についた水が落ちて、そのままワークトップの上に水たまりができるじゃない?

藤山:ええ。

鈴木:その対策として、洗った野菜をいったん置く水切り用の仮置き場をつくってほしいという人がいたの、シンクの中に。

藤山:シンクの中に?

鈴木:シンクの中というか、シンクとワークトップの間に幅30cm弱、深さ3cmくらいの段差をつくって、そこに洗い終わった野菜などを置けるようにした。段差には勾配がついているから、野菜から落ちた水は自然とシンクのほうに流れていく。

藤山:なるほど。それはいいかも。

鈴木:あれはまさに、何十年もキッチンで作業している人が望んだ、心からのアイデアという気がしたね。

藤山:シンクの上に3分の1くらいかぶせる網みたいな板とは違うんですよね。

鈴木:それは狭いキッチンを有効に使うための苦肉の策じゃない?決して使い勝手がいいとはいえないと思うよ。こちらはあくまで、調理作業上の効率を考えた水切りスペースだから。継ぎ目のないオールステンレスで。

藤山:シンクはステンレスにされることが多いですか。

鈴木:ほとんどステンレスかな。そういえばステンレスで思い出したけど、その昔、熱湯をかけるとシンクが「ボコッ」ていうから、「ボコッ」ていわないステンレスのシンクにしてほしいと頼まれたことがあった(笑)。

藤山:カップ焼きそばのお湯を捨てるときに鳴る、あれでしょ?どうすれば鳴らなくなるのですか?

鈴木:厚みのあるステンレスを使うしかないと思う。

藤山:何㎜以上だとボコッていわなくなります?

鈴木:1㎜以上かな。ただ、1㎜以上のステンレスは搬入が大変だって工務店の人が嘆いていた。

藤山:近頃は、調理道具を壁にぶら下げる収納が流行っているじゃないですか?フライパンとか。

鈴木:ああ、あるね。

藤山:鈴木さんのお客さんも、ああいう収納法を好まれます?

鈴木:どちらかというと、ぶら下げる収納は少数派かな。全部しまいたいという人のほうが多い。常に出してあるほうが使い勝手はいいのだろうけど。

藤山:見せる収納って、管理が大変ですからね。

鈴木:いま、そういわれて歴代のお客さんを振り返ってみたんだけど……壁にフライパンをぶらさげたり、調味料をきれいに並べたりする人には、なぜか小柄な美人が多かったような気がする。

藤山:小柄な美人って(笑)。どういう因果関係ですか?

鈴木:もちろん、関係はないけど……。いや、共通点としては道具にこだわりがある人かな。1枚の鉄板をハンマーで叩いてつくった手づくりのフライパンとか。そういう薀蓄のある道具をたくさん持っている人は、壁に道具をひっかけたくなるのかもしれない。

藤山:で、そういう人は小柄な美人なんですか。

鈴木:だから、その部分はたまたま(笑)。

藤山:こだわったけど、意外と不発に終わったなんてケースもあります?

鈴木:食洗機を使わなかった人はけっこういるかな。毎日バリバリ使っていて、「これは一生手放せない」という人と、「新しい家に引っ越してから、まだ1度くらいしか使ったことがない」という人と、真っ二つに分かれる。

藤山:使わない人の理由は何ですか?

鈴木:思ったよりも時間がかかるとか、音がうるさいとか、手で洗ったほうが早かったとか。盆と正月の来客が多いときだけしか使わないという人もけっこういるなぁ。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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