ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第58回】私のキッチン、ここにこだわりました(2)

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鈴木:そういえば、ワークトップだけ水色にしてほしいと要望されたお客さんがいらしたね。ちょっとラベンダーに近い水色。シンクが白でワークトップが水色。

藤山:それは何かを意識した色使いなんですか?

鈴木:お客さんは70代の老夫婦なんだけど、奥様が栗原はるみの番組を見ていたら、そこに登場するキッチンが素敵だったからあれと同じ色使いにしてほしいと。だけどそれは奥様の思い違いで、あらためてこちらで番組を確認したら、水色は壁と床のタイルの色で、ワークトップは白だった。「壁と床のタイルだけ水色のようですが……」と、おそるおそる確認したら、「でも、もう水色のワークトップしか考えられないから」って、そのままいくことになった。

藤山:キッチンはそこだけ独立した空間として扱えますから、少しくらい色で冒険してもいいかなって気になりますよね。

鈴木:そのことにお客さん自身が気づいて、自分から色を指定してくるのが面白いなと思う。さっき、若い人からは要望があまり出ないという話をしたけど、色についても若い人からの要望はほとんどない。ちょっと冒険してみようというのは、たいてい40代、50代以降の人たち。あっ、でも1人だけいたかな……若いお客さんで。壁付けキッチンの正面の壁と配膳台の上に水色のタイルを張ったことがあった。映画「かもめ食堂」に出てきそうなスカンジナビア風の色使い。

藤山:ふだんと変わった色使いは、鈴木さんのほうから提案されることもあるのですか?

鈴木:それはないかな。自分から提案するときは、無難にホワイト系でまとめていくことが多い。逆にお客さんの要望に刺激を受けて、新たな発見をしている感じ。「キッチンにはこんな色のタイルを張りたいです」って現物を持って来られて、「えぇー、さすがにその色はやばいんじゃないの?」と一度は引いてしまう。でも、いざ張ってみると、これが意外と良かったというケースは珍しくない。

藤山:たとえば?

鈴木:緑色と黄色のタイルを張ったキッチンなんて、まさにその典型。木製のキッチンにステンレスの天板を張って、正面の壁に緑色のタイル、ちょっとモノを置いたりするスペースに黄色のタイルを張ったの。

藤山:ブラジル代表みたいな。カナリア軍団のイメージ。

鈴木:そう思うじゃない?でも、これがじつにいい感じでね。ほかのお客さんにこのキッチンの写真を見せると、「うちもこんな感じにタイルを張りたいです」ってすごい人気なの。

藤山:(写真を見て)たしかに、これくらい抑えた渋めの緑と黄なら、どこにでもありそうな白いキッチンより楽しげな雰囲気になっていいかもしれません。

鈴木:タイル単体で見ると「えーっ」って色合いのものでも、全体として見れば雰囲気ががらっと変わる。

藤山:そういう意味では、ソファの生地選びも同じでしょう。インテリアショップの店員さんに10cm角の切れ端を50種類くらい見せられて、「どれがお好みですか」って聞かれても、正直「分かりません」としか答えようがない(笑)。全体のイメージが湧かないんだから。仕方がないので、唯一全体像がイメージできる展示品と同じ生地にするしかない。これ、ちょっと前に買ったわが家のソファの話ですけど。

鈴木:分かる、その気持ち。でも考えてみたら、色なんて飽きたら気軽に変えればいいんだよ。塗装仕上げなら塗り替えればいいわけだし、ビニルクロス仕上げなら張り替えればいい。どこかの壁の一面くらいなら大してお金もかからないから、そのときに好きな色を使っても全然構わない。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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