ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第57回】私のキッチン、ここにこだわりました(1)

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藤山:キッチンといえば、一般の人の感覚だとメーカーのシステムキッチンを自分好みにカスタマイズして設置するのが普通ですが、鈴木さんのお客さんたちはいかがですか?

鈴木:うちはほとんど一からつくっている。95%以上は造作キッチンかな。

藤山:そんなに。

鈴木:設計事務所に家づくりを依頼する人たちにとって、キッチンを一からつくるというのは最大のイベントなんだよ。

藤山:みなさん、最初から造作キッチンのつもりで設計を依頼されるのですか。

鈴木:いや、むしろ最初はシステムキッチンを入れるものだと思い込んでいる。だから、こちらから「キッチンは一からつくることもできますよ」というと、「えっ、そうなの?」って。ガゼン目が輝き始める。「べつにメーカーのものでいいです」と当初は消極的だった人も、いざショールームに行ってみると、部材の組み合わせに自由が利かないことが分かって、「やっぱり造作で」とお願いされるパターンも多い。

藤山:Aの水栓とBのシンクを組み合わせたかったのに、その組み合わせはできませんと断られる。「ショールームあるある」ですね。

鈴木:そう。あるあるをもう一つ発表すると、システムキッチンは寸法に微妙なあまりが出るとフィラーと呼ばれる調整部材を入れるじゃない?お客さんによっては、あのフィラーがどうにも許せないと(笑)。すべてのスペースは余すところなく使うべきだ、というのがその理由。

藤山:ぴったりじゃなきゃイヤ。

鈴木:国民性なのかね?

藤山:そうかもしれません。

鈴木:ただね、キッチンに対する要望は若い人ほどあまり出ない。こちらがいろいろ提案しても、「じゃあ、それでいいです」みたいなリアクションが多くて盛り上がりに欠ける。パン焼き器を置きたいとか、引出しがあればいいとか、その程度で。

藤山:まだ「キッチン歴」が浅いからでしょうか。

鈴木:そうかもしれない。だって40代後半以降のお客さんは、ああしたいこうしたいが次々に襲い掛かって、そりゃ大変だもの(笑)。

藤山:こだわりが止まらない。キッチンのこだわりって、具体的にどういうところに出ます?

鈴木:大きく分けると、見た目にこだわる、使い勝手にこだわるの2つかな。見た目というのは素材や色に対するこだわり。

藤山:石張りのキッチンとか?

鈴木:そうそう。いままでいちばんお金をかけたキッチンは石張りだった。イタリア産の高級な石を切り出してつくったファインアートみたいなキッチン。ワークトップの石だけで200万円くらいする。御影石、大理石、火成岩、砂岩……いろいろあるなかから好みの石を選択。そこからサイズと厚みを決めていく。でも、現場に持ち込んだらその場で割れちゃって(笑)。メーカーにはもう一度同じものをつくってもらった。

藤山:逆に、いちばん安上がりだったキッチンは?

鈴木:最もお金をかけなかったのは、コンクリートブロックを積んで、その上に合板を置いて、シンクを入れてタイルを張って終わりというキッチン。総額25万円くらい。

藤山:それはそれで、こだわりですよね。

鈴木:要は、高いから良い、安いから悪いという話ではなくて、あくまでキッチンを使う人の好みだからね。石を張るというのも、見た目の満足度を上げて、自分の気分が上がればそれでいいわけだから。誰に文句を言われる筋合いでもない。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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