藤山:キッチンといえば、一般の人の感覚だとメーカーのシステムキッチンを自分好みにカスタマイズして設置するのが普通ですが、鈴木さんのお客さんたちはいかがですか?
鈴木:うちはほとんど一からつくっている。95%以上は造作キッチンかな。
藤山:そんなに。
鈴木:設計事務所に家づくりを依頼する人たちにとって、キッチンを一からつくるというのは最大のイベントなんだよ。
藤山:みなさん、最初から造作キッチンのつもりで設計を依頼されるのですか。
鈴木:いや、むしろ最初はシステムキッチンを入れるものだと思い込んでいる。だから、こちらから「キッチンは一からつくることもできますよ」というと、「えっ、そうなの?」って。ガゼン目が輝き始める。「べつにメーカーのものでいいです」と当初は消極的だった人も、いざショールームに行ってみると、部材の組み合わせに自由が利かないことが分かって、「やっぱり造作で」とお願いされるパターンも多い。
藤山:Aの水栓とBのシンクを組み合わせたかったのに、その組み合わせはできませんと断られる。「ショールームあるある」ですね。
鈴木:そう。あるあるをもう一つ発表すると、システムキッチンは寸法に微妙なあまりが出るとフィラーと呼ばれる調整部材を入れるじゃない?お客さんによっては、あのフィラーがどうにも許せないと(笑)。すべてのスペースは余すところなく使うべきだ、というのがその理由。
藤山:ぴったりじゃなきゃイヤ。
鈴木:国民性なのかね?
藤山:そうかもしれません。
鈴木:ただね、キッチンに対する要望は若い人ほどあまり出ない。こちらがいろいろ提案しても、「じゃあ、それでいいです」みたいなリアクションが多くて盛り上がりに欠ける。パン焼き器を置きたいとか、引出しがあればいいとか、その程度で。
藤山:まだ「キッチン歴」が浅いからでしょうか。
鈴木:そうかもしれない。だって40代後半以降のお客さんは、ああしたいこうしたいが次々に襲い掛かって、そりゃ大変だもの(笑)。
藤山:こだわりが止まらない。キッチンのこだわりって、具体的にどういうところに出ます?
鈴木:大きく分けると、見た目にこだわる、使い勝手にこだわるの2つかな。見た目というのは素材や色に対するこだわり。
藤山:石張りのキッチンとか?
鈴木:そうそう。いままでいちばんお金をかけたキッチンは石張りだった。イタリア産の高級な石を切り出してつくったファインアートみたいなキッチン。ワークトップの石だけで200万円くらいする。御影石、大理石、火成岩、砂岩……いろいろあるなかから好みの石を選択。そこからサイズと厚みを決めていく。でも、現場に持ち込んだらその場で割れちゃって(笑)。メーカーにはもう一度同じものをつくってもらった。