ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第54回】良いキッチン・悪いキッチン判別法(2)

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藤山:以前、あるベテラン設計者の方にうかがったところ、「料理上手な人ほど昔ながらのクローズドタイプのキッチンを好む傾向にある」という見解でした。

鈴木:それは一理あるかもしれない。

藤山:そうですか。

鈴木:だからといって、対面式のオープンキッチンを好む人が料理下手かというとそうでもない(笑)。さっきも言ったとおり、作業に集中できるという意味では、非対面式の、一人でこもれるようなレイアウトのほうが有利なのは事実。いわゆる、仕込みが必要な料理だよね。生の魚を下ろすとか、鰹節を削るとか、そういうところからやる人は、周囲を壁で囲まれているほうが安心して作業できる。

藤山:でしょうね。

鈴木:ただ、対面式だって本格的な調理はできる。要は、キッチン全体が作業の流れを妨げないようなつくりになっていれば、どちらでもいいわけ。

藤山:作業を妨げないつくりというのは?

鈴木:配膳台があるかないか。配膳台という独立した形をとっていなくても、同等のスペースが確保できていれば十分。キッチンというのは、作業をする場所と、いったんモノを置ける場所の2つが全体の効率を大きく左右する。極端にいえば、この2つのスペースさえ意識してつくれば、まず「使えないキッチン」にはならない。

藤山:配膳台って、ダイニングテーブルとの兼用ではダメなんですか?

鈴木:分かってないなぁ(笑)。むしろ、そこに日本中の奥様方の不満が渦巻いているんじゃない。現状、場所がなくてダイニングテーブルを配膳台代わりに使わざるを得ないから、なんとかその状態を脱却したいとみんな願っているの。作業途中のものをダイニングテーブルに置いたら、食事の前に片づけなきゃならないでしょ。

藤山:たしかに。

鈴木:良いキッチンと悪いキッチンの判別法はそこだよ。配膳台の有無にかかっている。

藤山:レイアウトではなく……。

鈴木:そう。そういう意味では、じつはアイランド型のオープンキッチンを「使えるキッチン」として成立させるのは容易ではない。アイランドに配膳台に相当するスペースを確保するには、かなり長いアイランドをつくらないと納まらない。普通の住宅規模だとこの案は非現実的。だから、次なる手としてアイランド背面の壁側に配膳台スペースが取れないか探るわけだけど、そこにはたいてい、炊飯器、電子レンジ、トースターなどの機器類が陣取っているから新たなスペースが見つからない。

藤山:打つ手なし?

鈴木:アイランド型が前提だとなかなか難しいね。やはり、キッチンは壁にくっつけたほうが配膳台のスペースは取りやすい。でもそうすると、今度は別の問題が再燃する。「私は壁に向かって皿を洗うのがイヤなんです」。

藤山:設計の打ち合わせのなかでも、キッチンだけはどの家庭も白熱して長くなるといいますけど、それは、そういう心情的な部分にも原因があるのでしょうね。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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