ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第53回】良いキッチン・悪いキッチン判別法(1)

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藤山:キッチンについて考えるとき、避けて通れないのがレイアウトの話題です。ただ、これについて語るのはいつも厄介だという印象があります。まず、レイアウトのバリエーションが多すぎる。あと、「○○型」の定義が人によって微妙に異なるので、話がうまく通じない。

鈴木:うん。

藤山:一例としてLIXILさんのサイトを見ると、キッチンは調理のシーン別に大きく3つに分類されていました。「壁付キッチン」「対面キッチン・カウンターキッチン」「オープン対面キッチン」の3つ。さらに、オープン対面キッチンのレイアウトには「ペニンシュラ型」と「アイランド型」があり、「ペニンシュラ型」のなかには「ペニンシュラI型」と「ペニンシュラL型」がある。ほら、もう混乱してきました(笑)。

鈴木:レイアウトについて語り始めると、そうなるのは仕方がない。大事なのは、レイアウトはあくまでその他の要望との兼ね合いから、総合的に判断して導き出された結果であって、最初から「○○型」ありきで設計されるわけではないということ。

藤山:レイアウトでないとしたら、鈴木さんの場合、キッチンは何から考えています?

鈴木:「対面か、非対面か」。キッチンに立つ人が、家族のほうを見ながら作業したいのか、したくないのか。これさえ押さえておけば、あとはどうにでもなる。

藤山:対面にしたいという人は、どういう人ですか?

鈴木:家族となんでも共有したい人。

藤山:共有というのは?

鈴木:小さな子供の様子を見ながら作業するのは当然として、子供とお父さんがリビングで遊んでいる様子を見ていたいとか、そういうところまで共有したい。爪先だけでも家族の動きに参加していたいわけ。

藤山:仲間はずれはイヤだと。

鈴木:私だけキッチンに立たされているなんて納得がいかない。カラダだけでも家族のほうを向いていれば、疎外感が多少は緩和される。

藤山:その反対に、家族となんでも共有するのはイヤだという人もいるでしょ?

鈴木:そりゃもちろん。一人で作業に集中したいという人もいる。これまで、お客さんから何度かはっきりそう言われたよ。「調理中の姿は誰にも見せたく ないんです」って。

藤山:恩返し中の鶴だ(笑)。

鈴木:そういう人が全体の2割くらいかな。

藤山:非対面式キッチンも一定の支持があるんですね。

鈴木:ちなみに、普段、旦那さんから少しでも遠ざかっていたいという奥様も、非対面キッチンの熱烈な支持者(笑)。

藤山:そうは言っても、キッチンに立つ人と家族の関係って、いつまでも同じではありませんよね。新築後何年か経つと、あれほどこだわっていた対面式のキッチンが、逆に居心地悪くなる人もいるのではないですか?

鈴木:じつはそうなの。だから、50代、60代でリフォームの依頼をされるお客さんは、非対面キッチンに対する抵抗感が薄れていてレイアウトの選択肢が広がる。子供の様子を見る必要がなくなったからとか、家族となんでも共有するのがイヤになったとか、理由はいろいろあるだろうけど、いずれにしろ対面式一辺倒ではなくなる。あと、音が気になるので対面式にしたくないという人もいるね。

藤山:調理中の音がリビングに漏れるのが気になる?

鈴木:その反対。リビングから聞こえてくるテレビの音が耳障りだとか、子供が弾いているピアノの音が気になるとか。そういうのがイヤになって非対面の壁付きキッチンを要望される。

藤山:若いときに一度対面式キッチンを経験されて、いろいろなことが見えてきたのでしょうね。

(つづく)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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