ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第52回】キッチン廻りに増えたもの、消えたもの(4)

空間
キッチン
関心
悩みリフォームレビュー

鈴木:極端にいえば、キッチン廻りと洗濯廻りさえしっかり対応しておけば、ほぼ自分の夢はかなったと満足してくれるのが、奥様方の家づくり。

藤山:新築=キッチンっていいますからね。

鈴木:だけど、たまに自分からはそれほど要望を出されない奥様もいて、逆にこちらが心配になるときもある。

藤山:それは珍しい。

鈴木:設計作業も半ばを過ぎて、ほぼこれで決まりかなという段階で、でも、本当にこのままでいいのかなと気になって、「いまの間取りにはキッチンにパントリーがありませんけど、構いませんか?」と訊ねると、「えっ、いいんですか? そういうものをつくっていただいても」って。

藤山:できると思っていなかった。

鈴木:「そういうことができるのであれば……」って急にスイッチが入っちゃう(笑)。「最近はワークスペースも人気がありまして……」なんて言おうものなら、「あっ、それもほしいです!」って。

藤山:何かが覚醒した。

鈴木:「それとですね、○○さん。玄関に大きめのシューズクローゼットをつくっておかれると……」。

藤山:鈴木さん、わざと墓穴掘ってるでしょ(笑)。

鈴木:そうやって、自分で自分の首を絞めて、設計が振り出しに戻る。

藤山:でも、設計側から投げかけないと、パントリーもワークスペースも要望に上がらない人がいるというのは、2つともまだまだマイナーな存在ということなのかもしれません。

鈴木:たしかに、建売住宅みたいなものばかり見学してきた人は、その手のものに気がつかないかもしれない。

藤山:前から思っていたのですが、そろそろ「LDK」に匹敵する間取りの単位を積極的に提案すべきではないですか。たとえば、キッチン廻りならワークスペースとパントリーがセットになるから「KWP」が基本形とか。そういう単位を言葉として認知させておけば、いまの奥様みたいに途中から思い出したように要望が追加されることもなくなるかも。

鈴木:だったら、配置の順でいくとキッチンが真ん中になるから「WKP」、あるいは「PKW」のほうがいいかな。

藤山:いずれにせよ、語呂が悪いので流行りそうにはないですけど(笑)。要は、暮らしやすい間取りの工夫に、ちょっと気の利いたネーミングをしてみませんかってことです。丸谷才一さんのエッセイに、「何か新しいアイデアを思いついたら、すぐそのアイデアに名前をつけなさい」という意味のことが書いてありましたけど、やはりネーミングってアイデアを実現させる大きな駆動力になりますよ。

鈴木:「ゆるキャラ」とか。

藤山:そうそう。彼らにまとめて名前をつけたことで、ゆるキャラの世界が動き出したでしょ。

鈴木:「二世帯住宅」という言葉もそうだよね。

藤山:ほら、ネーミング大事じゃないですか。

鈴木:たしかに、「○LDK」という言葉が強すぎて、それにしばられた家づくりしかできない人もいるからなぁ。

藤山:というわけで、とりあえず次のお客さんから、さりげなく使ってみましょうか。「えーっと、1階北側のPKWの部分ですけど」って。

鈴木:考えとく(笑)。

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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