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鈴木:極端にいえば、キッチン廻りと洗濯廻りさえしっかり対応しておけば、ほぼ自分の夢はかなったと満足してくれるのが、奥様方の家づくり。
藤山:新築=キッチンっていいますからね。
鈴木:だけど、たまに自分からはそれほど要望を出されない奥様もいて、逆にこちらが心配になるときもある。
藤山:それは珍しい。
鈴木:設計作業も半ばを過ぎて、ほぼこれで決まりかなという段階で、でも、本当にこのままでいいのかなと気になって、「いまの間取りにはキッチンにパントリーがありませんけど、構いませんか?」と訊ねると、「えっ、いいんですか? そういうものをつくっていただいても」って。
藤山:できると思っていなかった。
鈴木:「そういうことができるのであれば……」って急にスイッチが入っちゃう(笑)。「最近はワークスペースも人気がありまして……」なんて言おうものなら、「あっ、それもほしいです!」って。
藤山:何かが覚醒した。
鈴木:「それとですね、○○さん。玄関に大きめのシューズクローゼットをつくっておかれると……」。
藤山:鈴木さん、わざと墓穴掘ってるでしょ(笑)。
鈴木:そうやって、自分で自分の首を絞めて、設計が振り出しに戻る。
藤山:でも、設計側から投げかけないと、パントリーもワークスペースも要望に上がらない人がいるというのは、2つともまだまだマイナーな存在ということなのかもしれません。
鈴木:たしかに、建売住宅みたいなものばかり見学してきた人は、その手のものに気がつかないかもしれない。
藤山:前から思っていたのですが、そろそろ「LDK」に匹敵する間取りの単位を積極的に提案すべきではないですか。たとえば、キッチン廻りならワークスペースとパントリーがセットになるから「KWP」が基本形とか。そういう単位を言葉として認知させておけば、いまの奥様みたいに途中から思い出したように要望が追加されることもなくなるかも。
鈴木:だったら、配置の順でいくとキッチンが真ん中になるから「WKP」、あるいは「PKW」のほうがいいかな。
藤山:いずれにせよ、語呂が悪いので流行りそうにはないですけど(笑)。要は、暮らしやすい間取りの工夫に、ちょっと気の利いたネーミングをしてみませんかってことです。丸谷才一さんのエッセイに、「何か新しいアイデアを思いついたら、すぐそのアイデアに名前をつけなさい」という意味のことが書いてありましたけど、やはりネーミングってアイデアを実現させる大きな駆動力になりますよ。
鈴木:「ゆるキャラ」とか。
藤山:そうそう。彼らにまとめて名前をつけたことで、ゆるキャラの世界が動き出したでしょ。
鈴木:「二世帯住宅」という言葉もそうだよね。
藤山:ほら、ネーミング大事じゃないですか。
鈴木:たしかに、「○LDK」という言葉が強すぎて、それにしばられた家づくりしかできない人もいるからなぁ。
藤山:というわけで、とりあえず次のお客さんから、さりげなく使ってみましょうか。「えーっと、1階北側のPKWの部分ですけど」って。
鈴木:考えとく(笑)。