ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第51回】キッチン廻りに増えたもの、消えたもの(3)

空間
キッチン
関心
悩みリフォームレビュー

鈴木:ワークスペースの話で盛り上がると、次に必ず出てくる話題が食品庫(パントリー)。

藤山:ああ、たしかに。やはり奥様方としては、キッチンを中心に、右にワークスペース、左にパントリーという布陣が理想なのでしょう。

鈴木:だけど、ワークスペースとパントリーをつくるから、代わりにキッチンが狭くなってもいいわけではない。キッチンはキッチンでちゃんと欲しい。

藤山:全部足すとどれくらいの広さになります?

鈴木:昔から、キッチンの目安は4畳半っていうじゃない。広い家なら8畳くらいになるときもあるけど、狭い家でもやはり4畳半は欲しい。そこに、プラスアルファでワークスペースとパントリーがくっつくと、最低でも6畳かな。

藤山:パントリーの形は、どの家もだいたい同じですか?

鈴木:基本的には、スペースと棚さえあればモノを詰め込めるから似たような形になる。サイズは大きいのから小さいのまでいろいろあるけど。

藤山:そうだ、キッチンといえば……。

鈴木:何?

藤山:最近は、洗濯機を組み込んだキッチンをあまり見なくなりましたね。

鈴木:おお、洗濯機。その昔、一瞬だけ大流行したけど、いまはまったく見なくなった。

藤山:あれはブームですか。

鈴木:ブームブーム。外国製のドラム式洗濯機が輸入されるようになって、「キッチンに洗濯機を組み込んだらおしゃれじゃない?」って、みんな一斉にピンときた。でも、実際に組み込んでみると全然使えなかった。機械が頻繁に故障したという理由もあるけど、そもそも日本における洗濯って、たんに洗濯物を投げ入れて回すだけじゃなかったんだよ。

藤山:といいますと?

鈴木:日本みたいに湿気の多い国に暮らしてvしたくなるの。欧米の人がつけ置き洗いをしているかvつけ置き洗いをするには、たらいや洗面器とそれを置く場所が必要になる。だけど、キッチンのシンクではそれができない。

藤山:たしかに。浴室などから、たらいごと運んでくるのは面倒だし。

鈴木:あと、浴槽の残り湯を洗濯に使いたいというのも日本特有。残り湯を使うには、浴室からキッチンまでホースを引っ張ってこなければならない。これも洗濯機を組み込むキッチンが廃れた理由の一つと思う。いまは、誰一人要望しないもの。

藤山:そうですか。

鈴木:ときどきこちらからの提案で、間取りの関係上「キッチンに洗濯機を組み込むとすっきりするんだけどなぁ~」なんてボソッと言っても、「いやー、ダメダメダメ」ってすぐ却下。

藤山:それに、日本の汚れは日本の洗濯機がいちばん落とせるようにつくられているでしょうからね。

鈴木:そもそも、比較的乾燥している国でつくられる洗濯機とは、求められる機能が違うのだろうね。たとえば、食洗機ならミーレ、掃除機ならダイソンみたいに、国内でも一定の支持を得ている海外メーカーはあるけど、こと洗濯機に関しては海外製品の存在感は極端に薄い。

藤山:トイレもそうでしょ?トイレも日本のメーカーが世界一です。

鈴木:そうそう。それを言っておかないと、LIXILさんが気を悪くされる(笑)。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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