ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第50回】キッチン廻りに増えたもの、消えたもの(2)

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悩みリフォームレビュー

藤山:これまでに、「こだわりのワークスペース」なんてありました?

鈴木:子供が3人いるご夫婦からの依頼で、3人並んで座れるくらい長いワークスペースをつくったことがあった。ワークスペースというより勉強コーナーだね。ただ、3人分ともなるとそれなりに面積をとるから、ほかの部屋が圧迫され始める。ダメ元で、「リビングにテレビを置くのはあきらめますかね~?」なんて言ったら、「それはそれでお願いします」ってピシャッと(笑)。

藤山:でしょうね。

鈴木:無理矢理なんとか納めたけど……。あと、別の家だけど、キッチンの隣にテーブルと本棚をL形に配置して、家族4人が一緒に本を読んだり勉強したりするコーナーをつくったこともある。4畳半くらいの広さで、メインのリビング・ダイニングとは別の扱い。お客さん自ら「家族図書館」という部屋名までつけられた。

藤山:そういう家がたまにありますね。

鈴木:雑誌で同じような家を見て感激して、「ぜひ、わが家にもこれを!」と切り抜きをもってこられた。このような、ワークスペースを拡大した3~4畳半くらいの小部屋は、わりと興味をもたれる人が多い。ただ、面白いのは、そういう部屋は子供が小さいうちはお父さんだけが使っている、子供が小学生くらいになるとお父さんと子供が一緒に使う、中学生くらいになるとお父さんは追い出される。このパターンはどの家も同じ(笑)。

藤山:お父さんって、本当に居場所がないですね。それに引き換え、お母さんは仕事が多くて……。

鈴木:どの家も忙しそうだ。

藤山:本来、家電の進化とともに、家事にかかわる時間は年々減っているわけでしょ。

鈴木:そのはず、なんだけどね。洗濯は洗濯乾燥機、調理は電子レンジ、片づけは食洗機、掃除はルンバ。家電のおかげで相当ラクになっているはず。でも、そのぶん、新しい仕事が増えるわけよ。

藤山:新しい仕事って……。

鈴木:キャラ弁つくるとか。

藤山:そこですか(笑)。

鈴木:笑いごとじゃないよ。キャラ弁つくるの、どんだけ大変か。

藤山:それは分かりますけど、大変ならつくらなけりゃいいじゃないですか。

鈴木:そういうわけにもいかないの。子供の世界というか、親の世界というか、そこらへんに渦巻く同調圧力ってのは無視できないくらい強いものがあるからね。だから最近は、キャラ弁を簡単につくれるグッズが花盛り。

藤山:らしいですね。

鈴木:子供だって忙しい。塾に行ったり、お稽古事に行ったりで、毎日疲れ切って帰ってくるらしいね。うちのお客さんたちはみんなそう言ってる。睡眠時間は少ないわ、目は疲れているわ、肩こりはすごいわで、息子の肩をお父さんが揉んでるって(笑)。お母さんはお母さんで、子供の送り迎えに行ったり来たりでしょ。そりゃ、のんびりできません。

藤山:結局、人間ってのんびりできないようにつくられているんですかね。

鈴木:日本人が、だよ。

藤山:ああ、日本人が……。

鈴木:いまどき、昼ドラをじーっと見ている主婦なんてほとんどいないよ。うちの母親くらいなもので(笑)。そう考えると、昼下がりにお母さんがぼんやりテレビを見ている風景って、それはそれで豊かさの象徴だったのかもしれないね。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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