ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第49回】キッチン廻りに増えたもの、消えたもの(1)

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悩みリフォームレビュー

藤山:住宅の図面の中に「ワークスペース」という文字を見るようになって久しいですが、こういう場所が一般化したのはいつ頃からでしょうか?

鈴木:昔から「家事室」「ユーティリティー」という名称があったけど、それとはちょっと意味合いが異なるよね。ここでいうワークスペースとは主に奥様のパソコン置き場。小さな子供がいる家庭では、子供の宿題を見てやったり、ミシンをかけたり。そんなことをするスペース。

藤山:メインはパソコン。

鈴木:いやいや、いまそう言いながら気づいたのだけど、そもそものきっかけはパソコンではなくファックスだったかも。家庭用のファックスが普及して、PTAの連絡などがファックスで送られてくるようになって、ファックス置き場を中心としたワークスペースが求められ始めたような気がする。90年代の後半くらいかな。

藤山:子育て関連のあれやこれやを処理する場所として。

鈴木:そうそう。格好良くいえば、「奥様の書斎」。

藤山:お父さんの本格的な書斎は絶滅寸前ですが、代わりにお母さんのワークスペースが生まれた。

鈴木:いまは共働きの家庭が多いからね。お母さんは会社で働き、家で家事もやり、PTAの書類もつくり……大変なんだよ。

藤山:お父さんより忙しい。「書斎くらいちょうだいよ」と。

鈴木:かたや、お父さんは子供と一緒にリビングでテレビゲームに興じている。ゲーム世代のお父さんは、書斎で本なんか読まないんだよ。たぶん。

藤山:お客さんは、最初の打ち合わせ段階からワークスペースを要望されていますか?

鈴木:そりゃもう、マストアイテム。お客さんが書いてこられる要望書のなかに、必ず「ワークスペース」あるいは「PCコーナー」とある。パソコンを置くスペースがほしいといわれるから、「それはパソコンだけじゃなくて、子供の学校のものを準備したりするワークスペースって意味でしょ?」って聞くと、「そうそう、それそれ!」。「あんた、よく分かってんじゃない」って顔される(笑)。

藤山:設計上のポイントはどこですか?

鈴木:キッチンの真横に置くこと。それがダメでもキッチンの近くは死守する。これ絶対。そうしないとスペースとして死んでしまう。鍋の火を見ながら、同時にパソコンも使えるくらいの場所がベター。それでいて、家事の忙しさからちょっと解放されて気分を変えられる場所にできれば最高。

藤山:広さは?

鈴木:最低90~100cm幅くらいあれば成立するかな。

藤山:造り付けですか?

鈴木:造り付けといっても、板一枚くっつけるだけだから。キッチンの延長としてつくるなら、なおさら造り付けにしたほうがきれいに納まる。パソコンを置くテーブルと、ちょっとした本棚と、電源コンセントさえあればいいのだから。

藤山:あとは、多少散らかっていても気にならないような工夫でしょうか。

鈴木:そうだね。以前、歯医者さんの奥様だったけど、浴室→洗面脱衣室→家事室(ユーティリティー)→食品庫(パントリー)→キッチン→ワークスペースを、ざーっとひとつながりにする間取りにしてほしいと要望されたことがある。すべての部屋をぐるっと回れるサーキュレーションプラン。究極の家事動線だね。しかも、散らかっている楽屋裏がリビングからは一切見えない。ぱっと見はホテルみたいに生活感がない空間。これは、われながらよくできた間取りだった。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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