鈴木:普段、新築の相談でお客さんと話していると、あれもこれもと要望が出てきて、リビングやダイニングで処理するのはもう限界、さてどうしたものかと悩んでいたら、玄関があるじゃないかと。試しに玄関にもっていったら、意外とスポッとハマったなんてことがよくあるの
藤山:玄関は最後の手段。
鈴木:そう。たとえば2年ほど前の案件だけど、50代のご主人から薪ストーブを置きたいという要望が出たの。といっても、リビングに設置して常時ストーブの世話をするというほど本格的にやりたいわけじゃない。奥さんはどちらかというと反対している。そんなとき、玄関をちょっと広めにつくっておいて、「家が完成して少し住んでみて、それでもまだストーブを置きたければここに置きましょう」と決めておくわけ。そうするとだいたいうまくいく。この前、久しぶりにうかがったら、「やっぱり、薪ストーブやりたいね」と言われたので、予定どおり玄関に設置することにした。
藤山:玄関だったら、多少汚れてもリビングほど気になりませんしね。
鈴木:奥さんも、リビングでやられるのはイヤだけど、玄関ならまあ許すかという感じ。そう考えると、玄関というのは「満足な庭をもてない都会人の憧れを実現する最後の楽園」ともいえる。
藤山:ああ、なるほど。うまいこと言いますねえ。最近、自転車の置ける広い玄関が流行っているのも、いまのように解釈すれば、そうなる理由がよく分かります。
鈴木:要するに、玄関が「庭化」しているんだよ。本来、きちんとした庭があればそちらに置いていたであろうものが、玄関にどんどん押し寄せてきている。
藤山:広い土間状の玄関にすれば、いろいろなことができるでしょうし。
鈴木:都市部の住宅の玄関は、「全天候型の庭」になり得るだろうね。強引に言えば、玄関のドアが敷地境界の門で、部屋に入る最初のドアが玄関という感じかな、いまは。
藤山:1層分、内側に入り込んでいる、と。地方みたいに広い庭のある住宅なら、相変わらず昔ながらの玄関がいいのでしょうか?
鈴木:庭が広ければ、玄関を無理やり庭化する必要はないけど、その代わり、広い土間をどこかにつくっておきたい。家の中に多少汚れてもよい広い場所があると、何かと重宝するから。
藤山:なるほど。「庭や土間の代用空間」と捉えると、玄関はまだまだ可能性が拓けそうです。
鈴木:個人的には、玄関っていろいろできることがありそうだと睨んでいる。家の中の余白みたいな場所だから、やろうと思えばなんでもできる。格式さえ重んじなければね。
藤山:今日は特に目的のない玄関論でしたけど、意外とまともな話に落ち着いてほっとしました(笑)。
(おわり)
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