ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第20回】玄関は最後の楽園(4)

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藤山:動物の剥製もそうですが、昔は玄関に魚のいる家がけっこうあったように思いませんか?

鈴木:ああ、それは子供のいる家だったらいまでも多いかも。金魚とかメダカとか亀とか。

藤山:今度は生きているほうの亀ですね。

鈴木:そう、夜店で買ったミドリガメ。ほとんどは金魚鉢や水槽を置く場所がなくて、仕方なく下駄箱の上に置いたというパターンだな、それは。

藤山:どこだどこだと探していたら、「ああ、下駄箱の上が空いていたよ」みたいな。そういえば私も、30年くらい前に同じようなことをした記憶があります。

鈴木:でも、それって、実は玄関の本質を突いていたりするんだよね。

藤山:えっ?

鈴木:普段、新築の相談でお客さんと話していると、あれもこれもと要望が出てきて、リビングやダイニングで処理するのはもう限界、さてどうしたものかと悩んでいたら、玄関があるじゃないかと。試しに玄関にもっていったら、意外とスポッとハマったなんてことがよくあるの

藤山:玄関は最後の手段。

鈴木:そう。たとえば2年ほど前の案件だけど、50代のご主人から薪ストーブを置きたいという要望が出たの。といっても、リビングに設置して常時ストーブの世話をするというほど本格的にやりたいわけじゃない。奥さんはどちらかというと反対している。そんなとき、玄関をちょっと広めにつくっておいて、「家が完成して少し住んでみて、それでもまだストーブを置きたければここに置きましょう」と決めておくわけ。そうするとだいたいうまくいく。この前、久しぶりにうかがったら、「やっぱり、薪ストーブやりたいね」と言われたので、予定どおり玄関に設置することにした。

藤山:玄関だったら、多少汚れてもリビングほど気になりませんしね。

鈴木:奥さんも、リビングでやられるのはイヤだけど、玄関ならまあ許すかという感じ。そう考えると、玄関というのは「満足な庭をもてない都会人の憧れを実現する最後の楽園」ともいえる。

藤山:ああ、なるほど。うまいこと言いますねえ。最近、自転車の置ける広い玄関が流行っているのも、いまのように解釈すれば、そうなる理由がよく分かります。

鈴木:要するに、玄関が「庭化」しているんだよ。本来、きちんとした庭があればそちらに置いていたであろうものが、玄関にどんどん押し寄せてきている。

藤山:広い土間状の玄関にすれば、いろいろなことができるでしょうし。

鈴木:都市部の住宅の玄関は、「全天候型の庭」になり得るだろうね。強引に言えば、玄関のドアが敷地境界の門で、部屋に入る最初のドアが玄関という感じかな、いまは。

藤山:1層分、内側に入り込んでいる、と。地方みたいに広い庭のある住宅なら、相変わらず昔ながらの玄関がいいのでしょうか?

鈴木:庭が広ければ、玄関を無理やり庭化する必要はないけど、その代わり、広い土間をどこかにつくっておきたい。家の中に多少汚れてもよい広い場所があると、何かと重宝するから。

藤山:なるほど。「庭や土間の代用空間」と捉えると、玄関はまだまだ可能性が拓けそうです。

鈴木:個人的には、玄関っていろいろできることがありそうだと睨んでいる。家の中の余白みたいな場所だから、やろうと思えばなんでもできる。格式さえ重んじなければね。

藤山:今日は特に目的のない玄関論でしたけど、意外とまともな話に落ち着いてほっとしました(笑)。

(おわり)

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鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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