ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第19回】玄関は最後の楽園(3)

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藤山:玄関といえば、「何を飾るか」も気になりますね。鈴木さんのお客さんは、玄関に何を飾られています?

鈴木:比較的多いのは、家族の写真かな。下駄箱の上に家族の写真が入ったフォトフレームをたくさん並べている家は多いよ。

藤山:それは、宅配便の人などに見てもらいたいという意味なんでしょうか。

鈴木:さあ、どうだろう。どちらかといえば、自分の気分を上げるためにやっているようなものじゃないかなぁ。

藤山:絵を飾る人は少ないですか?

鈴木:昔はいたけど、最近は減ったかな……。意外とみなさん「飾り下手」というか、何を飾ればいいのか分からないという人が多い気がする。何か飾りたいと思っているのかもしれないけれど、そこまで手が回らないというか、いつも居る場所じゃないから気持ちが行き届かないというか……。要するに余裕がないんだろうね。ただ、気持ちの問題とは別に、光のせいで飾る気になれないというケースはけっこう多い。

藤山:光のせい?

鈴木:日が入らなくて暗い玄関だと、やる気にならないという意味。明るくてさわやかな玄関は、たいていどの家でもきれいに飾っているようだけど、暗いとどうもダメみたいね。

藤山:玄関が暗くなるプランって、多いですか?

鈴木:いろいろな悪条件が重なって窓がうまく取れないと、どうしても暗い玄関になりがちだよ。だからといって玄関ドアをガラスにできるかといえば、それも防犯の問題があってなかなかできない。仕方がないので照明を組み込んだりするんだけど、住んでいる人がスイッチを入れてくれなければ、やはりずっと暗いまま。

藤山:普段誰もいない玄関に照明をつけておくのは、もったいないですから。

鈴木:特にマンションは暗くなりがち。鉄の扉がどーんとあって、その周りに窓がなければもう真っ暗。私だって何か飾ろうという気にはならないよ。結局、光の入らない玄関は「飾ること」が長続きしないというのが結論。

藤山:暗い玄関に家族の写真を置いていたら、なんだか本当に暗い家族になりそうですもんね。あと、いまは分かりませんが、昔はそこそこ格式の高そうな家に行くと、広い玄関ホールの真ん中に鳥の剥製なんかが置いてありませんでした?鷹が羽を広げてシャーっとしている。

鈴木:ああ、あったあった。亀とかね。

藤山:そう、亀の剥製とか鹿の首とか。あれは一種の流行ですかね?

鈴木:流行だろう。

藤山:何で流行ったんでしょう?

鈴木:なんでだろうね。でも、必ずいたよね、動物が。

藤山:うちにも亀がいました。玄関ではなく客間ですけど。

鈴木:そういうデカイ系のものって、たいてい会社の慰安旅行かなにかでお父さんがつい買ってきちゃうんだよ。うちの親父もそれで買ってきた。

藤山:何をですか?

鈴木:マッサージチェア。

藤山:動物じゃないですけど(笑)。

鈴木:動物もあったよ。木彫りの象。

藤山:ああ、ありますね、木彫りの象。アジア系の飲み屋の入口にあるやつ。

鈴木:うちのおふくろなんて、それですごく怒ってたもん。親父が何かの団体旅行でインドに行って、お土産に木彫りの象を買ってきたわけ。それがけっこう大きな象で、牙のところにデカイ象牙が入っている。でも、その象牙がニセモノなんだ(笑)。

藤山:どうしてニセモノと分かったんです?

鈴木:「こんなもの、見りゃ分かるわよ」っておふくろが怒ったから。それでニセモノと決まった(笑)。

藤山:狩猟時代の本能なんですかね、動物の剥製とかを飾りたがるというのは。

鈴木:「俺はこんなにデカイやつを仕留めたぞぉ」というアピール。

藤山:お金を払っただけですけど。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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