ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第18回】玄関は最後の楽園(2)

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鈴木:スリッパの起源については諸説あるけど、日本人の生活スタイルに西洋の文化が入ってくる明治以降に定着してきたものというのは確かだよね。ただし、日常的にスリッパを履くか履かないかは、うちのお客さんでも各家庭でまちまち。だから、スリッパの収納についても各家庭で考え方が変わる。ちなみに私は、冬でも家の中ではずっと裸足。靴下も履かない。

藤山:スリッパを履く習慣はないですか。

鈴木:ないねぇ。

藤山:わが家は、私だけ履いてます。

鈴木:なんで?

藤山:キッチンとか洗面の周りって水で濡れているでしょ? それを踏むのがイヤなんです。おそらく私だけなんですけど。

鈴木:ということは、各家庭でというより、個人個人でも履く履かないの違いがあるわけだ。

藤山:ただ、それとは別に、スリッパには礼儀作法みたいなものも組み込まれていますよね。仮に、その家庭でスリッパを履く習慣がなかったとしても、来客のときはスリッパを出して「どうぞ、お上がりください」というのが礼儀のようになっている。あれは、「こんなに汚いわが家を素足で歩かせるなんて失礼ですから、スリッパでも履いてください」という謙遜を表しているのでしょうか?

鈴木:まあ、事実スリッパの裏側は汚れるから、お客さんに履いてもらう意味はあるよね。だけど、お客さんが履いたスリッパをしまうとき、一方のスリッパの中にもう一方のスリッパを突っ込んでしまう家があるじゃない?

藤山:ああ、ありますね。

鈴木:そうすると、片方のスリッパの中は確実に汚れる(笑)。

藤山:おお、言われてみれば。その汚れたスリッパを今度は別のお客さんが履くわけか……。このあたり、礼儀作法の業界ではどういう見解を出しているのでしょうか(笑)。

鈴木:小笠原流とかね。でも、その汚れたスリッパを履かせられるほうは、おそらくそんなに失礼だとは思っていない。

藤山:まあ、そうかもしれません。

鈴木:だから、「スリッパとは何なんだ」と(笑)。

藤山:深いなぁ。この話は日を改めてまたやりましょう(笑)。スリッパの話が出たので、今度はシューズボックス、下駄箱についてうかがいましょうか。鈴木さんは、下駄箱の設計で気をつけていることって何かあります?

鈴木:昔はタタキの上に下駄箱を置くようにしていたけど、いまは玄関の上に置いている。タタキの上にいったん降りて下駄箱の靴を取り出すという動作が、どうにも不便だなぁと思って……。

藤山:それはよく議論になる部分ですね。下駄箱は下なのか上なのか、あるいは両方にまたぐのか。

鈴木:設計上はタタキにつくったほうがラクだけど、使う側にしてみれば、やっぱりタタキの上は使いづらいよ。

藤山:玄関収納はどうですか?

鈴木:玄関収納は、意識して大きく取るようにしている。特にマンションのリフォームで相談にくるお客さんは、玄関の狭さに一様に不満をもっているから、ほかの部屋を一部屋つぶしてでも、玄関を広くして収納のスペースを取ることが多い。

藤山:そこはデベロッパーのほうも気づいていて、最近は玄関収納の大きさを売りにしているマンションも多いですよね。

鈴木:あとは、花粉症対策をよく頼まれる。室内に花粉を持ち込みたくないから、玄関で上着を脱いだらそのままそこに掛けておきたいとか。もっと徹底的にやる場合は、玄関とほかの部屋の間に扉を設けて、その扉の内側で花粉を全部落としてから部屋に入る形式にする。その中に空気清浄機を置きたいという人もけっこういて、そのためにはコンセントも必要になる。

藤山:半導体の工場みたいですね。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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