ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第17回】玄関は最後の楽園(1)

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悩みリフォームレビュー

藤山:今日は、玄関の話でもしましょうか。

鈴木:玄関の何を話すの?

藤山:何でしょうね(笑)。これといって明確なテーマはないのですが、この連載も今回で5回目なので、そろそろ部屋ごとに「あるべき姿」みたいなものを提示していってもいいのかなぁと思いまして……。

鈴木:玄関、かくあるべし。

藤山:そういうことです。

鈴木:まあ、玄関がどうあるべきかは人それぞれだろうけど、他人の家の玄関を見て、すぐに分かることが一つあるよね。

藤山:何ですか。

鈴木:玄関が散らかっている家は、家の中も同じように散らかっている。

藤山:はいはい。分かります。そうでしょうね。

鈴木:散らかっている・いない以前に、「玄関とはこういうものだ」という認識が人によって異なるという問題もある。

藤山:と、いいますと?

鈴木:昔、二世帯住宅の設計で、親世帯と子世帯の玄関を共用にしたことがあったんだけど、そこの姑さんとお嫁さんで「玄関かくあるべし」の認識がまったく違ったの。姑さんの感覚だと、玄関とはいつもピシッとしていなければならない場所。だから、玄関のタタキに脱いだ靴が置きっぱなしになっているなんて、もってのほかなわけ。

藤山:ええ。

鈴木:でも、お嫁さんの感覚だと、まだ小さい子供が常に出入りしているわけだし、自分も出たり入ったりで忙しいから、靴なんて脱ぎっぱなしでも全然構わないじゃないか、と。

藤山:まあ、そうですね。どちらの言い分も分かりますね。

鈴木:ただ、姑さんは面と向かって息子の嫁に小言を言ったりはしない。で、なぜか私のところに愚痴が飛んでくる(笑)。「最近の子は玄関をちっともきれいにしようとしないのよねぇ」って。

藤山:二世帯の玄関は共用にしないほうがよさそうです(笑)。

鈴木:本当にそう思った。玄関一つで、嫁姑問題の火種が常にくすぶり続けるわけだから。

藤山:あと、パッと見は品が良さそうな人なのに、その人の家に行ったら玄関がぐちゃぐちゃでビックリしたなんて経験はないですか?以前、私が住んでいたアパートの大家さんが、まさにそんな人でした。

鈴木:いるかもね、そういう人。

藤山:大家さんはおばあさんなんですが、その家に毎月家賃を払いに行くんです。高校生と中学生の男のお孫さんがいる三世代同居の一軒家でしたけど、玄関に入るといつも足の踏み場がないくらいスニーカーがあふれている。靴の上にまた靴が乗っかっているような状態でした。

鈴木:バーゲンセールのワゴンのような。

藤山:そう、まさにそんな感じ。で、よく見たら大家さんのサンダルもその上にひっくり返っている(笑)。

鈴木:そういうことがあるから、最近は玄関を家族用と来客用の2つに分けてくれという要望がわりと多い。その昔、アパートの大家さんに自宅の設計を頼まれたことがあったんだけど、いまの話と同じで、その人もアパートの入居者が毎月自宅まで家賃を払いにくる。だから、家族用の玄関が散らかっていてもお客さんには見えないように、来客用の動線と家族用の動線を2つつくっておいてくれと言われたの。このプラン、すごくうまくいったね。とても喜ばれた。

藤山:来客の話で思い出しましたが、玄関といえばスリッパの問題もありますよね。スリッパをどこにどう納めるか。

鈴木:ああ、スリッパね。これもまた悩ましい問題で、話せば長くなるんだけど……、そもそもスリッパとは何なんだと(笑)。

藤山:そう、スリッパとは何なんだ。かねがね、そこは一度はっきりさせておきたいと思ってました。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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