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初心者でも楽しめる!世界の建築を楽しむ街歩き

何気なく訪れる建築物も、歴史的な背景やストーリーを知れば、その場所をぐっと身近に感じられるようになります。ヨーロッパの建築を通して、街歩きがさらに楽しくなる建築の見どころをご紹介します。

トレンドはショップ から!最新デザインテクニックを学ぶショップ建築


流行が目まぐるしく変わる現代では、国内外問わず、新しいコンセプトを持ったショップが次々と登場しています。商品を売る一般的な「ショップ」だけでなく、レストランやカフェも、広い意味での「ショップ」だと言えるでしょう。

そのような場所では、商品や食のトレンドを知ることができるだけではありません。ディスプレイされた商品をより魅力的に見せてくれるショップデザインは、最新技術や斬新なアイデアの宝庫でもあるんです。そんな素敵な空間で過ごす時間は、一層充実したものになりますよね。


ショップデザインの目的は「興味を持って訪れてもらう」、「体験を記録に残す」、そして「再び来店してもらう」ため。


同じ場所に滞在する時間は短いですが、いかにその場所を印象に残すかがカギとなります。

今回の記事では、私が実際に訪れたユニークなショップの見どころをご紹介しましょう。色や素材、デコレーションなどに、ぜひ注目してみてください。


■カラーを使いながら自在に空間を演出する

ショップでは、個性的で大胆な色使いが見られることがあります。

色の印象が空間全体の印象にもつながり、記憶への残り方もユニークなものとなります。特に海外では、普段見慣れない色使いに触れられることも多いでしょう。たとえば、前回の記事でもご紹介したとおり、ヨーロッパなどでは、もともとの建築物をそのままに、別の施設やショップとして利用するケースが多くあります。元からある古い設備やパーツの存在をカバーしながら、モダンかつ自然に見せ、ショップのレイアウトやイメージとマッチさせるようなデザインの工夫がされています。

こちらは、 オランダにあるPhilips Museum(フィリップスミュージアム)です。

エントランスから目立つ場所にある消火設備 を、鮮やかなカラーでペイントした例です。古い建物ならではの素材や設備は、造作で存在を隠すこともあるのですが、潔くキャンバスのように壁面を利用することで、まったく違和感のない仕上がりになっていますよね。単色ではなく、同系色でアートのように彩ることで、目立ってしまう設備の扉もすっきりと馴染んでいます。パーツや素材、凹凸にとらわれず、全体の空間をキャンバスとする色の切り替えセンスは、古い建物を利用する機会が多い国のデザイン力でもあるでしょう。


Philips Museum(フィリップスミュージアム)内
Emmasingel 31, 5611 AZ Eindhoven

一方、インテリアショップでは 、家具を陳列するだけでなく、魅力的にコーディネートする例として、カラーを取り入れた空間提案も行われています。トレンドカラーや柄、そして家具の素材感を組み合わせながら、商品販売の向上にもつなげています。季節や商品の入れ替えと同時に、DIYでスタッフ自ら壁などをペイントする風景もよく見られ、いつ訪れても新鮮な雰囲気を味わえます。たとえば、上の写真では、大理石風のテーブルと、ワインレッドのじゅうたん・壁が、絶妙にマッチしていますよね。左奥に見えるユニークな壁の柄もアクセントになっています。

Mobilia(モビリア)
Utrechtsestraat 62, 1017 VR Amsterdam


■古い建物ならではの持ち味を楽しむ

ヨーロッパでは、環境保全への取り組みが積極的に行われているため、どんなに大胆で魅力的なデザインであっても、環境への負担が大きくなるようなものは、それほど価値が 高くないと見なされる傾向にあります。そのため、リサイクルし、省エネルギーであることや、元の建物を生かしながら人にも環境にも優しいものであるという視点を持ったデザインが欠かせません。

こちらのインテリアショップは、新しくモダンな素材も取り入れながら、古い素材や廃材、リサイクル品などをミックスさせた個性あふれる空間です。かつて実際に使われていた暖炉があった場所は、壁のレンガの焼けついた色が迫力を見せ、吹き抜けの高い天井ともあいまって、引き込まれてしまう雰囲気を作り上げています。また、雨の日や冬の暗い時期などでは、温かみのあるライトアップで情緒あふれる表情を楽しめるでしょう。セルフコーヒーやティーも置いてあるので、ゆったりとした滞在時間を過ごすこともできます。


Raw Materials(ローマテリアルズ)
Rozengracht 231, 1016 NA Amsterdam


リノベーション建築では、階段にこだわったものもよく見られます。フロアをつなぐ階段は、古い建物であるほどディテールや素材使いが素晴らしく、大工の知恵とアイデアが込められた歴史が伝わってくるようです。現代の技術であれば、新しく架け替えをすることも可能ではあるものの、長らく人々に使われ、補修を繰り返されながら触れられた姿は、ショップのシンボルのような存在にもなっています。

こちらは、間仕切りを撤去してワンフロアにし、階段を残したものです。深みのある味わいのアイアンで全体の補強と手すりのデコレーションをし、ガラスで安全面を確保しています。広々としたフロアのなかでも、ひと際存在感のある立体的な装飾階段が空間を彩り、モダンな家具とレトロな建物の調和を図るようコーディネートされています。


HAY House コペンハーゲン
Østergade 61, 1100 København, デンマーク


■素材使いの組み合わせに注目する

ショップ建築では、ウッド、ガラス、鉄など、多様な素材の組み合わせによって、その場所の 印象を形作れるよう工夫されています。色を分けるだけでなく、素材そのものの風合いや質感を加えることで、空間に深みや奥行きといった趣を生み出すことが可能です。なかでも最近、特に注目されているのが、建築におけるガラスの使い方。ガラスというと、スタイリッシュでモダンな素材というイメージが強いかもしれませんが、ヨーロッパの建築では、歴史ある建物や街並みを生かすために、ガラスが使われていることがあります。ポイントは、ガラスの透明性。歴史的な建築デザインを引き立たせるような、補助的な役割を果たしています。

こちらのショップは、かなり傷みや風化の見られる軀体の味わいをそのまま生かし、補強をしながら、カジュアルなショップへと生まれ変わっています。街並みや建物の持つ自然な姿を邪魔することなく、ガラスの持つ丈夫さや機能性を十分に生かされた手法が特徴です。ガラスが、リノベーションに最適な素材であると感じられます。

Sissy-Boy
Markt 55, 6211 DS Maastricht

空間に広がりを与えながらも、しっかりとスパイス的な存在感を与えるガラス。


こちらはオランダの建築家集団「MVRDV」による、シャネルのブランドショップです。オランダ・アムステルダムのレンガ建築をそのままに、入り口部分はこの建物のために開発されたガラスブロックに置き換えられました。

伝統的な街並みに溶け込みながら、一段と目を引く存在感。現代の技術と斬新なアイデアが融合したデザインは、世界からも注目されています。

CHANEL Amsterdam Store
Pieter Cornelisz Hooftstraat 68, 1071 CA Amsterdam


■光の取り入れ方を工夫する

緯度の高い地域では、夏は日が長いものの、冬は非常に限られた時間しか日照がありません。さらに地域柄、太陽に恵まれない季節も長いため、古くから光のある環境がとても大切に考えられてきました。そのため、間口が狭く奥行きのある長屋のような建物では、外部に窓を取れない分、内部で工夫を施しながら、光が取り入れられています。たとえば、街の通り側は小さなエントランスや窓だけであっても、内部にはプライベートな中庭が設けられ、屋外の楽しみも取り入れながら光を導く手法。外の空気や、自然の緑いっぱいの風景、季節ごとに咲く可憐な花々が、ショップを訪れる人々、またショップで仕事をする人々にも安らぎを与えます。

上の写真は、そうした光の取り入れ方を工夫している事例です。外部に面さない部分では、天窓から光を取り入れたり、床にガラスや透過性のある素材を利用したりすることで、階下まで自然光が入るように工夫されています。結果的に人の気配も感じられ、閉塞感のない開放的な空間に仕上がっています。

Goûts et Couleurs
Ezelstraat 1 & 5, 8000 Brugge, Belgium


■照明で演出性と心地よさを高める空間に


商品を魅力的に見せるライティング。


日本ではすみずみまで明るい店舗も多く、夜であってもくっきりと店内を見渡せますが、ヨーロッパでは、まぶしいほど明るくなるようなライティングはほぼ見かけません。

こちらはデパートの飲食店ですが、インパクトのあるコッパー素材の器具がほどよく光のメリハリを生み出し、控えめながらも抜群の存在感とモダンさを演出しています。一見暗く感じられますが、テーブルの上はしっかりと照度が確保され、落ち着いた雰囲気のなかで食事を楽しめます。


de Bijenkorf Amsterdam
Dam 1, 1012 JS Amsterdam

ゆったりとくつろぐためには、リラックスできる明かりの色が欠かせません。心地よさを感じさせるため、照明の明るさや色まで意識された空間デザインは、飲食店はもちろん、図書館や役所などの公共建築でも意識されています。

このように、普段商品など、置いてある「もの」だけに注目しがちなショップも、それらの入れ物である「箱」となる空間へ視線を移して見ると、興味深い発見がたくさんあります。


街を歩く際には、「行ったことのない新しい場所で、新鮮な風景を楽しみたい」と思うかもしれませんが、ショップ建築に注目すると、必ずしもそうではありません。ショップは入れ替わりがあるため、いつかまた同じ街を訪れたとしても、同じ風景が見られるとは限らないからです。その時代のその街を直に感じられるショップ建築は、たくさんの新鮮なアイデアを得られます。街歩きの際にはぜひ、さまざまなお店を訪れてみてくださいね。

初心者でも楽しめる!世界の建築を楽しむ街歩き

オランダ・アムステルダム在住のインテリアコーディネーター/ライター/バイヤー。約10年間住宅・店舗の設計、インテリアコーディネーターとして従事したのち、より本物の建築やデザインに触れたいとの思いから渡欧。これまでに15ヶ国の建築や見本市、ショールームを巡り、現地を通した建築・インテリアデザインのテクニックやライフスタイル情報をライターとして発信中。フリーランスのインテリアコーディネーターとして日本の住宅やリノベーションプランのデザインも手がけています。建築やインテリアを通して暮らしが楽しくなるヒントを日々集めています。

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