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ひとの家見て、わが家を直せ。

がんばって家を建てた人の裏話ほど素敵な話はない!
片づけ・収納設計で人気の建築家と建築専門誌元編集長の聞きたくても聞けない家づくり事情。
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【第38回】窓にまつわる理想と現実 (2)

鈴木:今朝、現地調査に行ってきたお宅もまさにそのパターン。依頼者のお父さんが建てられた戸建てをリフォームしてほしいという案件なんだけど、家の中に入ると、南面に大きな掃出し窓、さらに大きな吹抜け、吹抜けの上にはトップライトと高窓まであって、日が燦々と降りそそいでいる。まだ6月だというのに地獄のように暑いわけ(笑)。

藤山:でしょうね。

鈴木:せめてトップライトとその近くにある高窓を開けて、室内の熱気を逃がせればよいのだけど、そう提案したら「窓を開けるとハチが入ってくるからダメ」って。という前提条件で、「先生、なんとかしてくれ~」。


藤山:一からやり直し(笑)。

鈴木:そういう話はよくある。

藤山:そうでしょう。

鈴木:昔、見学に行った住宅はもっとすごかった。2階の南側に、奥行きは浅いけど幅の広い寝室が設けられていて、よせばいいのに南面を天井まで窓ガラスにしていた。設計した建築家が家の中を案内しながら、得意気にこう言うわけ。「このベッドルームでは、星空を見ながら眠りにつけます」。それはそうかもしれないけれど、夏場は間違いなく早朝からまぶしくて寝ていられないよ。昼間は室温が上昇して蒸し風呂状態になるだろう。体調が悪くてちょっと横になりたいと思っても、このベッドでは余計に具合が悪くなるかもしれない。そういう代物だった。


藤山:クライアントが気の毒ですね。

鈴木:その後何年か経って、その建築家に、「あの寝室、どうなりました?」って聞いたら、「いまは別の部屋に寝ていると言っていたかな」って。しれっと。

藤山:しれっと。

鈴木:おそらく、図面や模型を見せられた段階では、クライアントの頭の中にはよいイメージしか浮かんでいなかったと思う。


藤山:星空を見ながら眠りにつく私。

鈴木:でもそれって、全体の一面しか見ていないわけだから、現実には穴だらけじゃない?本当はその穴を建築家が先回りしてふさいでいくべきなんだけど、ヘタすると建築家まで一緒になって星空を思い浮かべてウットリしている。

藤山:実際、そうだったのでしょう。

鈴木:住宅の設計で見落としがちなのが、そうした暑い寒いにかかわる熱のコントロール。あと、音の反響。こういう目に見えない、写真には写らないものこそ、見過ごしていると、のちのち深刻な事態を招いてしまうからおそろしい。


藤山:もう一つ、風通しの確保も見過ごされがちです。

鈴木:そうだね。建物の南と北に窓を取っておけば、それだけで風通しが確保できると思い込んでいる設計者は少なくない。現実にはそのとおりにならないことも多いのに。

藤山:図面を見ると、建物の南の窓から北の窓へ、風通しの矢印がヒラヒラッと羽衣みたいな絵で描いてあったりしますよね、青色で。


鈴木:それ、とりあえず描いているだけという人もいると思うよ。さしたる根拠もなしに、なんとなく。「こうなるといいな」という願望(笑)。

藤山:以前、住環境の専門家が、「某老舗建築雑誌の『環境住宅特集』を見ていたら、掲載されている住宅の<風通しの矢印>が、どれもこれもデタラメであきれ返った」とおっしゃっていました。本当にその矢印どおりに風が流れるとしたら、ノーベル賞ものだと。

鈴木:光と風って、建築のなかではほとんど神話みたいな扱いになっている。一般の人はもちろん、設計者だって、光と風は何の疑いもなく全面的に良きものとして受け入れようとする。


藤山:たしかに。だから、必ずしも良いことばかりではないと意識しておかないと、思わぬミスを犯してしまう。

鈴木:光が入るということは、同時に熱も入ってくる。南西に面しているキッチンなら、そのせいでモノが腐りやすくなる。家相や風水でもキッチンは南西に置くなといっているけど、これって昔ながらの暮らしの知恵で、考えてみたら当たり前の話なんだよね。



(つづく)
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ひとの家見て、わが家を直せ。

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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