初心者でも楽しめる!世界の建築を楽しむ街歩き

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日常を支える住宅建築とインテリア|世界の住宅事情(後編)

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建築インテリアデザイン

「世界の住宅事情」前編では、ヨーロッパにおける古い建物を大切にする文化や、DIYがさかんなことについてご紹介しました。後編では、比較的新しい時代の住宅建築や、あっと驚くようなユニークなデザインの住宅をご紹介しましょう。

ヨーロッパは、家具や水回りの設備機器などのデザイン性が高いことで有名です。住宅にも、洗練されたデザインの魅力が表れています。

新しい住宅に見られる開放的なデザイン

歴史のある建物は味わい深い魅力がある一方で、実生活における障害や不便さを伴うこともしばしばあります。

こちらの写真は、オランダのアムステルダムで撮影した築古住宅の引っ越し風景です。築年数が100年を超える建物では、エレベーターがないケースが多く、人ひとりがやっと通れるほどの細く急な階段しかないことも珍しくありません。 そのため、階上にある家は窓を取り外して荷物を出し入れします。毎日、急な階段を昇り降りするのは不便ですし、大きな家具や家電を運び入れる際は余分な費用・手間がかかるなど、負担を感じる側面も多くあります。

このような負担を軽減したいというニーズに応えるように、新築の住宅では、開放的でより暮らしやすいデザインがのびのびと実現されています。

こちらの写真は、2016年にアムステルダムで開催された「建築デー」の様子です。市内各地で、建築途中の一般住宅でオープンハウスが開かれていました。1階から3階までを貫く大胆な吹き抜けと、大きな窓から入る明るい光が特徴で、広々とした心地よい空間が生まれています。新築住宅においては、既存の古い住宅よりも自由度の高い空間デザインを採用することが可能です。主要な設備にも、日本とはまた違うデザインや機能が発見できます。

こちらはイタリアのキッチンショールームで展示されていたキッチンです。スタイリッシュな雰囲気が格好いいですよね。

背面の壁面収納とつながるカウンターや、本棚のような収納が一体にデザインされています。インテリアに調和しやすい素材や、家具との融合がなされた美しいデザインが特徴的です。古い住宅では、既存の限られたスペースの中で納まるように空間のレイアウトを工夫しなければなりませんが、最新で機能性が高い設備機器に合わせた空間づくりや、斬新なアイデアを取り入れたインテリアを実現させられるのは新築住宅ならではのメリットと言えるでしょう。

モダンでスタイリッシュなデザインの住宅

近年、一般の住宅が民宿泊用の部屋へ転換される機会が増え、慢性的な家不足に悩んでいる都市が多くあります。都市中心部の歴史的地区は歴史的地区で特に顕著なことから、住宅不足を補うため、郊外には次々と新しい住宅が建築されています。

古い建築は外観をほぼ変えることができないという制約がありますが、新しく建築する住宅では、思い切ったデザインを取り入れることが可能です。

こちらは、イタリアのミラノにある集合住宅です。

モノトーンを貴重にした色合いと、ガラスなど未来的な印象のある素材を組み合わせた外観が特徴になっています。モザイクのような窓の配置や、ところどころ箱が飛び出したような不規則なデザインは、遠くから見ても目を引くたたずまいです。 このエリアは、近代的なビルが建ち並ぶ美しい広場として、ミラノの新しい名所となりました。

Piazza Alvar Aalto 20124 Milano MI

こちらは、オランダのアムステルダム北エリアにある、建築家の自邸が建ち並ぶ住宅街の風景です。どれも存在感のある建物ですよね。

新進気鋭の建築家が、新しいエネルギーシステムを取り入れるなど、実験的な試みをしているのもこれらの特徴のひとつです。北エリアは現在開発計画が進んでいる地域のため、他国からも建築関係者が視察に訪れるなど、注目が集まっています。

Bosrankstraat, 1032 LH Amsterdam

こちらはドイツのハンブルクにある高級集合住宅。

港のあるエリアに建ち、エルベ川を臨む景色とのコラボレーションが魅力です。58戸のアパートメントがねじれながら積み重なっている、ユニークな外観になっています。隣には世界的な消費財メーカー・ユニリーバの社屋があり、そちらと合わせて建築名所としても有名です。ユニリーバの社屋は、建物全面が透明なプラスチックの膜で包まれたような姿が印象的。自然エネルギーを活用した、環境にも優しいシステムが世界的に注目を集めた建築でもあります。

Marco-Polo-Tower Am Strandkai 3, 20457 Hamburg, Germany 

ワクワクするような大胆な発想から生まれた住宅

世界には、私たちが通常抱いている「住宅」のイメージを覆すような、大胆な発想を持ったおもしろい建築もあります。「いったいどんな暮らしをしているんだろう?」と想像力をかき立てられるような住まいをご紹介しましょう。

こちらはイタリアのミラノにある「ポルタ・ノヴァ」再開発地区にある高層マンションです。「ボスコ・ヴェルティカーレ(垂直の森)」と名付けられたこちらの建物は、すべての住戸のバルコニーに植物が植わっています。

樹木があらかじめ植えられることを想定して設計され、それを実現するために高度な建築技術も採用されました。高層階のマンションであっても、緑豊かな庭のある住まいで暮らせるなんてとても贅沢ですよね。

Bosco Verticale 20124 Milano MI

こちらは、オランダやイギリスで数多く見られる「ハウスボート」の風景です。住宅用の土地が特に少ない地域では、国土を有効活用するために、運河に浮かぶボートを使った住まいが登場しました。給排水経路や電気も整備され、立派な住宅として確立しています。

こちらはオランダのロッテルダムにある「キュービックハウス」です。

利用できる水平面の面積を最大限に活用するために、立方体を45度傾けるという発想からデザインされています。クリエイティブで斬新な姿の住宅は、一目見ると忘れられないインパクトがありますよね。

Kijk-Kubus Overblaak 70, 3011 MH Rotterdam 
 

2回にわたり、世界の住宅についてご紹介しました。世界の国々には、多様な住宅の形や、日本とは異なる暮らしへの考え方があり、とても興味深いものがあります。旅先で訪れた都市にも、そこに住む人々の「日常」があります。私たちの日常との違いを見比べながら旅をすれば、その街の印象がさらに深く記憶に残るでしょう。住宅を通して、世界の街の「何気ない日常の姿」にもぜひ注目してみてください。

初心者でも楽しめる!世界の建築を楽しむ街歩き

松永香織さん

オランダ・アムステルダム在住のインテリアコーディネーター/ライター/バイヤー。約10年間住宅・店舗の設計、インテリアコーディネーターとして従事したのち、より本物の建築やデザインに触れたいとの思いから渡欧。これまでに15ヶ国の建築や見本市、ショールームを巡り、現地を通した建築・インテリアデザインのテクニックやライフスタイル情報をライターとして発信中。フリーランスのインテリアコーディネーターとして日本の住宅やリノベーションプランのデザインも手がけています。建築やインテリアを通して暮らしが楽しくなるヒントを日々集めています。

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