ひとの家見て、わが家を直せ。

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【第9回】やっぱり必要ありませんでした(1)

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悩みリフォームレビュー

藤山:なぜだか急に欲しくなって買ったものの、2、3度使ったきり使わなくなるモノってありますよね。

鈴木:あるね。うちは調理器具でそういうものが多いよ。“一瞬で剥けます”って触れ込みの皮剥き器とか。見つけたときは「こんなに便利なものがあるのか!」って興奮して買うんだけど、すぐに使わなくなった。

藤山:皮なんて、そんなに剥かないし。

鈴木:忙しくて剥いているヒマがない(笑)。洋服なんかもそうだね。雑誌を見て、「かっこいいじゃん」って似たようなシャツを買ったりするけど、買った時点でもう満足。ほとんど着ないものがけっこうある。

藤山:家づくりにもそういう部分がありますね。なんとなく、いきおいでつくってしまう部屋とか。

鈴木:あるある。いざ家を建てるとなると、それまでの思いが一気に吹き出すからね。あれもこれも欲しくなって、収拾がつかなくなる。それと、目先のことに引っ張られがち。小さな子供がいる家庭は、どうしても子供中心の家づくりになってしまう。

藤山:子供なんて、いつまでも子供じゃないのに。

鈴木:10年くらいしたら出て行くからね。もっとも、最近はいつまでも家に居座っている子供も多いみたいだけど……。

藤山:これまでの設計で、絶対に欲しいと要望されてつくったにもかかわらず、その後、意外と使われなかったものって何かあります?

鈴木:けっこうある。いまでもたまに笑い話になるのが、ガスコンロの話。

藤山:はい。

鈴木:子供が3人いらっしゃる5人家族の新築なんだけど、お母さんは、お父さんと子供の分を合わせて毎日4人分のお弁当をつくっていたの。

藤山:それは大変。

鈴木:そのお母さんというのは炊飯器が嫌いな人で、「うちはずっとガスの直火でお米を炊いておりまして……、新居のキッチンもぜひガスでお米が炊けるようにしていただければ」って。

藤山:ガスで炊く?

鈴木:お釜で炊くやつ。コンロの上に直接お釜を置いて。

藤山:ああ、ありますね、そういう釜。

鈴木:ガスで炊くのと炊飯器で炊くのでは、コシも粘りも全然違うらしい。ただ、そのとき問題になったのは、ガスコンロのバーナーを4つにしたいと要望されたこと。お米を炊く釜はコンロの上に常に置きたいから、バーナーは全部で4つないと不便というわけ。

藤山:ええ。

鈴木:で、いろいろ考えたあげく、予算にあまり余裕がなかったこともあって、据置型のガスコンロを2台横に並べて置くことにしたの。ガスコンロ1台にバーナーが2つだから計4つ。しかも、ガスコンロそれぞれにレンジフードを1つずつ付けた。

藤山:相当なこだわりですね。

鈴木:でしょ?なのに、竣工後に訪ねてみたらコンロは1台しか使っていない。どうしたんですか?って聞いてみたら、「新築のお祝いに主人の母から炊飯器をいただきまして……、試しに使ってみたらこれがすごく便利で……」。

藤山:(笑)

鈴木:「最近の炊飯器はお米が踊って、ガスより美味しく炊けるんですよ」だって(笑)。あれほどガスにこだわっていたのにっ。

藤山:コンロ、2つも並べてね。

鈴木:当然だけど、炊飯器を置く場所は確保していなかった。なので、キッチンカウンターのそばのちょっと空いたスペースに窮屈そうに置かれていたよ。

藤山:せめて、ガスと炊飯器、半々で使ってほしかったなぁ。

鈴木:でも、一度便利な機器に慣れてしまうと、なかなか元には戻れないものだよ。ま、あと何年かして子供から手が離れてお父さんのお弁当だけになったら、また昔みたいにガスの直火に戻るかもしれないけど……。毎日のお弁当づくりがある人にとって、スイッチ一つで炊ける炊飯器って、そりゃ魅力的なものだよ。似たような話はほかにもあって……。

(つづく)

ひとの家見て、わが家を直せ。

鈴木信弘 藤山和久さん

(鈴木 信弘)一級建築士。神奈川大学工学部建築学科非常勤講師。1990年、横浜市に一級建築士事務所「鈴木アトリエ」を開設。収納・片づけに関するノウハウと生活者の視点に立ったきめ細やかな設計提案で世代を問わず人気を集める。2013年刊行の著書『片づけの解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、散らかりにくい家のしくみを建築設計の視点で分析した“異色の片づけ本”として一躍ベストセラーに。いま注目の建築家の一人。

(藤山 和久)編集者。建築専門誌「建築知識」元編集長。2004~2015年、株式会社エクスナレッジに在籍。これまで延べ1,000人以上の建築士、業界関係者を取材。その豊富な経験をもとに、一般向け書籍でも数多くのヒット作を世に送りだす。2009年刊行の『住まいの解剖図鑑』(増田奏・エクスナレッジ)は、家づくりの入門書として絶大な人気を誇るロングセラー。著書に『建設業者』(エクスナレッジ・2012年)など。

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