藤山:現状のモノの量とか、片づけられる人か散らかしがちな人かを知りたいだけですよね。
鈴木:そう。それなのに、「いらっしゃる前に、きれいに片づけておきますので」って。俺は家庭訪問の先生かっ(笑)。
藤山:(笑)。まあ、わが家の内部事情は、最高機密に属する情報でもありますから。
鈴木:いちばんのプライバシーだもんね。
藤山:でも、そこはグッと我慢して公開したほうがいい?
鈴木:そのほうがいいと思う。以前、70代のおばあさんからこういう相談があったの。「旦那が1年前に亡くなったので、いま住んでいる家と土地を売ってマンション住まいにしようと思っている」と。
藤山:ええ。
鈴木:「でも、娘たちが『あれはお父さんが一生懸命働いて買った土地なのだから絶対に残すべきだ』と反対している」と。ただ、聞いてみたら、2人いる娘のうち一人は独身でアメリカ在住、もう一人は結婚して九州にいる。どちらもこの先一緒に住む予定はないと言うわけ。
藤山:はい。
鈴木:「だったら、おやめなさい」と言ったの。いまから建て替えるのは、年齢的にも経済的にも大変だからって。そしたら、半年後にまた相談があった。で、結局、建てたんだよ。でも、2回目に相談されたときは、「人生最後だから好きなようにする!」って、すっかり前向きで明るくなっちゃって打ち合わせから楽しんでもらったね。
藤山:いい話。
鈴木:同じ建て替えの相談でも、そういう身の上話みたいなところから始まるときは最初から本音が出やすいじゃない?お互いに腹を割って話すから、信頼関係も築きやすいし、いい結果にもたどり着きやすい。
藤山:そうか。分かりました。家づくりのスタートは、相手にまず身の上話を聞いてもらうつもりで相談に行けばいいわけですね。
鈴木:そういうことだな。
藤山:だったら、占いのできる設計者なんていたら、ちょっと流行るかもしれません。
鈴木:Dr.コパなんて、まさにそうじゃん(笑)。
藤山:あー、そうだ。家相から住まいを考える建築家。ということは、Dr.コパに頼むといい家ができるんですかね?
鈴木:それは知らない(笑)。家、見たことないし。
藤山:そういえばあの方、最近は馬主としても有名ですよね。「コパノなんとか」って馬は、全部あの人が馬主ですよ。
鈴木:やっぱり、家相とか風水とか、最後はそういうものが強いよ。住宅の設計を始めて四半世紀、ほとんど図面が出来上がった段階で、「家相の先生に見てもらったらダメだと言われたんです」と、一気にひっくり返された経験が何度かあったなぁ……。
藤山:鈴木さんもその「経験者」ですか(笑)。でも、設計者渾身の提案を、家相の先生の一言がやすやすと蹴散らしてしまうという事実が、住宅の設計が単なる工学的側面だけでは語れない世界だということを、改めて物語ってもいますよね。
鈴木:それだけ住宅設計の世界は多面的だってことだよ。
(おわり)
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