藤山:突然ですが、鈴木さんご自身が「ああ、いい家ができたなぁ」って満足する瞬間ってありますよね?
鈴木:もちろんあります。
藤山:そういうときは、クライアントも同じくらい満足しているものですか?
鈴木:おそらく。顔を見ればだいたい分かる。「満足してますか?」なんて、聞いたことはないけど。
藤山:きょうはそのあたりを掘り下げてみたいと思います。設計する側もされる側も、双方が満足する家づくり。家づくりに成功する人とはどういう人か。そう言われて、何か思い当たることあります?
鈴木:そのものズバリってわけじゃないけど、こちらがアレコレ提案したことを積極的に受け入れてくれるクライアントは、いい家ができているような気がする。
藤山:設計者の提案を受け入れる人?
鈴木:そう。設計側の提案に乗っちゃいましょうという人。たとえば、住宅密集地にある敷地なら、日当たりを考慮してリビングは敷地なら、日当たりを考慮してリビングはとか、そういう提案。一般的な感覚とは違う提案もあるけど、それを思い切って受け入れる人は、新しい世界が開けていく。
藤山:なるほど。
鈴木:コストを調整するときも同じ。実施図面が出来上がって、工務店に見積りを取ったら予算を300万円とか500万円とかオーバーしているときってあるじゃない?
藤山:ありますね。
鈴木:そうなるとこちらは、なんとか予算内に収まるような努力をしていくけど、どうしても予算内に収まらないときがある。
藤山:あるでしょうね。
鈴木:そんなとき、そこからさらに施工面積を削ったり、サッシのグレードを下げたり、床暖房をやめてみたり……、そういう強引なコストダウンをしていくと、竣工後にたいてい後悔をする。そうではなく、「ここまで検討してくれたのだから、お金のほうはなんとかします」っていう人。そういう人は、結果的に得をする。予算を多少オーバーしていても、最終的な満足度は確実に上がるからね。
藤山:要するに、「余裕がある人」でしょうか。心にもお金にも余裕がある人は、いい家を建てられる?
鈴木:予算は少なめでもいいの、気持ちのほうに余裕があれば。相手の話を聞く耳をちゃんと持っていて、無茶な要望をたくさん出さなければ、たいていはうまくいくはず。
藤山:「予算に余裕がない人に限って要望が多い」って、どの設計者も言いますよね。
鈴木:お金は出さないけど口は出すタイプね。ま、口を出すのはいいんだよ、自分の家なんだから。ただ、口を出すなら現状を客観視して出しましょうね、ということ。
藤山:鈴木さんの設計史に残る、「予算がないのに無茶な要望が来た!」って、何かあります?
鈴木:うーん……。最初から「スキップフロアの家にしてくれ」という人がいたね。
藤山:スキップフロアって、お金かかりますよね。
鈴木:かかる、かかる。だから、「どうしてスキップフロアの家なんですか?」って聞いたら、「スキップフロアの家にして、1階と2階の中間にトイレを置けば、トイレが1つで済むはずだ」だって。最初から図面ができあがっていた(笑)。