鈴木:そう。「鈴木くんがいろいろ考えてくれた末にこうなったのだから、仕方がないよ」ってご両親が出してくれたの。
藤山:それはまたなんというか……。
鈴木:ただ、コストを掛けてつくったわりには、住宅としてはいろいろ問題が残った。あとで気づいたんだけど、家の中に引戸を一枚も使っていないんだ。
藤山:ん? ということは、全部開き戸ですか?
鈴木:そう、どこもかしこもドアばっかり。しかもドア1枚1枚の幅を広めにとったものだから、開けたり閉めたりするときにいちいち邪魔でしょうがない。当時は、「出入口といえば開き戸だ」って勝手に思い込んでいたんだな。
藤山:大学で助手までやっている人が。
鈴木:さらにマズかったのがリビング。リビングのどこに家具を置くか、まったく想定せずに図面を描いてしまった。
藤山:ひとり暮らしだって、家具くらい置くでしょうに。
鈴木:だけど、当時は家具なんて本当に頭になかったんだ。細長くて広いリビングなんだけど、空間としては〈キマッタぞ〉ってひとり悦に入っていたの。でも、家具を搬入したらどうにもうまく置けない。テレビもソファもテーブルも、どこにどう置いてもしっくりこないんだ、それぞれの距離感が。
藤山:細長いリビングなら、なおのこと難しいでしょうね。
鈴木:そうなの。あと、ロフトにも問題があって……。
藤山:まだあるんですか(笑)。
鈴木:ロフトに上がるために取り外し可能なハシゴをつくったんだけど、このハシゴが重くて……誰も持てなかった。
藤山:はあ。1,000万円も追加で出したのにねぇ……親御さんが不憫でなりません(笑)。とはいえ、奥さんのご両親みたいな方って建築業界には絶対に必要ですよね。何の経験もない新人に思い切って仕事を任せてくれる人がいなかったら、世の中回っていきませんもの。
鈴木:そのとおり!だから、設計者が初めて設計する住宅はたいてい親兄弟の家なんだ。これが赤の他人だと大変なことになる。
藤山:やっぱりそうですか。
鈴木:大学時代の後輩で初仕事が友達の家の新築というヤツがいたけど、彼なんか風呂場の設計をミスって竣工早々カビだらけにしたからね。訴訟寸前までいったもん。
藤山:友達じゃなかったら訴えられていた?
鈴木:だろうね。笑えない話だけど、「絶交程度で済んでよかった」って言ってたよ。
(つづく)
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