認知症を予防する、暮らしと住まい[第4回]

認知症と住まい

空間
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老後学ぶ

バリアフリーで優しい空間を

 自身や家族が認知症と診断され、介護が必要になった場合、家は「バリアフリー」であることが大切になります。歩けなくなれば車椅子が必要ですし、なるべく安全に過ごせる住まいにしたほうが、介護する側も楽になるでしょう。

「ただ、認知症の進行具合によって、すぐにバリアフリーにする必要がない場合もあります。軽度認知障害やその前段階の場合、玄関の小さな段差や階段の上り下りは、むしろいい運動になるでしょう。

 その中で、安全に生活できるように手すりを設けたり、将来的に要介護状態になった場合を想定して、スロープを後から設置できる設計にしておくのは、とてもいいことですね。

 事前に、どんな状態になったらどういう家にするべきかを検討して、準備しておくことが大切だと思います」

要介護状態になる前に、話し合っておく

 自宅で認知症患者の介護をするのは、とても大変です。周りで支える家族は、どうしても疲弊してしまうでしょう。

「介護サービスのスタッフは、認知症に対してどう接するべきかを理解していますから、優しく、患者が反発しないようにと心掛けるんですね。家族の場合、どうしても厳しく当たってしまう傾向があります。認知症患者が最後まで持っているのはプライドですから、言動を叱るような対応をして、怒りを買ってしまうことも多いです」

 もちろん、家族として寄り添いたいという気持ちもあると思いますが、ある程度、プロに任せることも必要なのかもしれません。

「まだまだ自分たちで支えられる範囲だと思っていても、早いうちに、どういう状態になったら介護サービスに頼るか、どこまで進行したら施設に入所するか、といったことを話し合っておくことが大切です」

 そうしたことを踏まえた上で、住まいのリフォームなども計画しておくことが重要というわけですね。

「軽度認知障害とか、認知機能はしっかりしてもフレイル状態になったときのために、使いやすいキッチンにして、みんなで楽しく料理をできるとか、介助がさほどなくても入浴したり、トイレに行ったりできるとか、そういうリフォームを考えたいものです。

 認知症の診断が下った場合は、家族だけでの介護は無理と考え、介護スタッフのサービスや施設の利用を前提に、最終的には家の処分まで頭の中に入れておいてもいいかもしれませんね」

都市に住む、という予防法

 ある程度、歳を重ねると、のんびりと郊外で過ごしたい、という方は少なくないでしょう。都会の家を処分して地方で暮らすのは、素敵に思えます。
 また、このコロナ禍でリモートワークが進み、働きざかりのうちから郊外に移り住む、という方も増えてきているようです。

「郊外に住むことは、精神的にプラスになることもあるでしょう。その一方で、認知症予防という観点からは、一概にいいとはいえない側面もあります」

 その最大の理由は、社会インフラの不足にあるといいます。郊外や自然が豊かな土地は、ともすれば公共交通のインフラが脆弱なことがあるのです。

「都会で出かけるときは、車よりも電車やバスを利用します。都会で働いていれば、1日に1万歩くらい歩くことも珍しくありません。ところが地方暮らしだと、基本的に車生活になるでしょう。家の横に止めてある車で、職場の駐車場まで走っていき、そこからオフィスまで数十歩歩くだけ。あとはほとんど歩きません」

 第3回でお伝えしたように、認知症を予防するには適度な運動が必要です。能動的に運動できる方なら別ですが、地方に住んでいるとどうしても車に頼ってしまうでしょう。

 都市部であれば、交通インフラも整っていますし、短い距離を歩いて買い物にも行けます。ほとんど車移動になるよりは、自分の足でこまめに歩いた方が、認知症予防という点でも効果的です。

「理想としては、個々の家単位ではなく街や住宅地単位で、歩きやすくて住みやすい、健康と認知症予防を折り込んだ地域になることです。もちろん、介護サービスを積極的に受けられる体制も整っていると、一層いいですね」

 認知症の予防に適した街をデザインすることで、誰もが健康的で幸せに暮らせるようになるのかもしれません。

≪お話を伺った方≫

内田和彦さん

筑波大学准教授。2003年に筑波大学発のベンチャー企業・株式会社MCBIを設立。現在は同社取締役会長。バイオマーカーによる認知症などの先制医療支援により「未病・予防」医療を支える研究を行う。簡単な血液検査によって軽度認知障害(MCI)のリスクが判定できることを発見。

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
写真提供◎Shutterstock/LIXIL

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