認知症を予防する、暮らしと住まい[第3回]

認知症を予防する生活様式

空間
その他
関心
老後学ぶ

良い栄養状態を保つ

 認知症と診断された方を検査していくと、さまざまな共通項が見られるそうです。

「顕著に見られるのが、栄養が不足しているということです。歳を重ねるとフレイルという状態になることはお話しましたが、そのサイクルを理解しましょう」

 加齢とともに運動をしなくなると、筋肉が衰えてしまいます。その結果、食欲も落ちて体重が減少し、さらに運動ができなくなる……というような悪循環に陥ってしまうのです。

「ビタミンB12が不足することで、免疫力が落ちてしまうことも危険です。血圧や糖尿病のコントロールにも、バランスの良い栄養をとれるよう、食事の改善は非常に有効でしょう。あとは、質の高い睡眠をきちんと取ること」

 この2つは、すぐにでも実行すべき予防方法ですね。

「また、口腔内の衛生環境も重要でしょう。認知症患者の脳の中を調べてみると、歯周病菌が脳内に入り込んでいるケースがしばしば見られるのです。生活習慣病で血管が弱くなることで、口腔内の歯周病菌が脳にまで到達していると考えられます。定期的に歯科検診を受けるのも、大切だということです」

歩くことは、最善の予防策

 認知症予防に効果的なのが「運動」です。生活習慣病対策としても、フレイルの悪循環から抜け出すためにも、体力をつけておくことが必要になります。

「それまでほとんど運動をしていない方が、いきなりジョギングや水泳をするのは難しいかもしれません。けれども、歩くだけなら、自分のペースでできるでしょう。1日30分を週に3回くらい、少し汗ばむくらいの速度でウォーキングするのは、とても効果が高いのでおすすめです」

 適度な運動で血流も良くなり、筋力もつくため、食欲も出ます。さらに、疲労は快眠にもつながるのです。

「脳の働きを改善することも、期待できます。そのためには、毎回同じコースを散歩するのではなく、知らない道、普段あまり行かない場所を歩いてみるのも良いでしょう。見たことがない景色は、脳を刺激し活性化します」

 近年は、シニア世代の登山がブームです。定年後の新しい趣味として、山登りを楽しむ方も増えていると聞きます。

「登山は素晴らしいですし、旅行も良いです。自身の体力を見極めながら、無理のない範囲でどんどん外に出るのが良いでしょう。認知症になる方の多くは、その前から引きこもり状態で出かけない生活、人と話さずにテレビばかり見る日々を続けている傾向があるともいわれています」

コミュニケーションをとる

 脳を活性化するためには、なるべく一人きりにならないことがいいそうです。

「誰かの話を聞き、それを理解する。その上で、自分の考えを相手に伝える。これらはとても重要です。もし相手がいないのなら、最近流行のAIペットロボットでもいいかもしれません。でも、一番は誰かと会って直接、話をすることです。

 話は少しそれますが、ビジネスや学術の世界でイノベーションを生むためには、実際に会って話をすることが大切だという研究論文があるんですね。それはつまり、きちんと脳を使う、ということなんです」

趣味を活かす

 そうした脳への刺激を促すためにおすすめなのが、「趣味を楽しむ」ことだそうです。

「趣味を持って能動的に活動することは、脳への刺激という面でも、体力をつけるためにも、ひいては生活習慣病を予防する点でも、とてもいいと思います。

 たとえば、ゴルフは非常に有効なスポーツです。長い距離を歩きますし、頭も使います。社交ダンスもいい。海外では、歳を重ねてから社交ダンスを趣味にする方がとても多いですね。もちろん、ウォーキングや登山もいいでしょう」

 あまりスポーツが得意ではない方は、歩くほかにどのような趣味がおすすめでしょうか。

「脳への刺激という点なら、手先を使う編み物や、頭を働かせる麻雀、囲碁、将棋などもいいでしょう。ボードゲームは相手がいるので、コミュニケーションをとることにもつながります。楽器演奏もいいですね。ギターやピアノなどは、右手と左手で違う動きをしますから。もし小さなお庭があるなら、家庭菜園もおすすめです。身体をしっかり動かしますし、自分でつくった野菜で、食生活の改善にもなります」

「働くこと」は素晴らしい

 内田先生がもっとも推しているのは、働くことだそうです。定年退職をきっかけに、家に引きこもる人も少なくないと聞きます。

「お金のためじゃなくてもいいんです。義務感ではなく、楽しく続けていくことで、脳は活性化します。家庭菜園も労働ですし、ボランティアでもかまいません。仕事をするということは、とても脳を使います。働ける体力と機会があるなら、ぜひ70歳でも80歳でもチャレンジしてみてください。認知症予防において、素晴らしい効果があると思います」

 次回は、認知症のための住まいのあり方について伺います。

≪お話を伺った方≫

内田和彦さん

筑波大学准教授。2003年に筑波大学発のベンチャー企業・株式会社MCBIを設立。現在は同社取締役会長。バイオマーカーによる認知症などの先制医療支援により「未病・予防」医療を支える研究を行う。簡単な血液検査によって軽度認知障害(MCI)のリスクが判定できることを発見。

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
写真提供◎Shutterstock

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