しかし、この時点では認知症かもと疑う人があまりいないのだそうです。歳をとったら仕方ない、気をつけよう、という程度に考えられるからかもしれません。
「そのボヤは、時間の経過とともに、どんどん広がって行くでしょう。そうなると、もう簡単には消せません。これが、認知症ではないかと疑い始める状態なんですね。そこで病院に行く。つまりは消火活動を始めても、良くて半焼、悪ければ、柱がかろうじて残る程度まで燃えてしまうでしょう」
この状態では進行を止めることも大変で、脳の機能を回復させることは、まず不可能だということです。
「前よりも物忘れがひどくなったという状態を、『主観的認知機能低下』と呼びます。そう感じたら、すぐに病院で検査をすることも重要です。放っておくと『客観的認知機能低下』、つまり、明らかに周囲の人が見ても認知機能が低下している状態につながっていきますが、その状態から回復させるのは非常に困難です」
早めの検査で、リスクを把握する
認知症のごく初期の状態を軽度認知障害(MCI)と呼びます。
「軽度認知障害の方における約40%が、4年後に認知症と診断されるといわれています。認知症の発症がぐんと増えるのは75歳ですが、それ以前に、50歳くらいからリスク管理をしっかりとするべきです。
私たちの研究開発の結果、簡単な血液検査でこのリスクを測定できるようになりました。現在、全国300軒以上の医療機関で受けることができます」
認知症で一番多いアルツハイマー型は、脳の中にアミロイドβタンパク質という物質が蓄積し、正常な神経細胞に障害を与えることで発症すると考えられているのです。
これを排出するためには、3種類のタンパク質が必要なものの、軽度認知障害の方はこれが不足しているといいます。
「その結果、認知機能の低下を招き、アルツハイマー病につながると考えられます。これらの病態進行に関わるタンパク質の血中量を測定することで、MCIのリスクを評価できるようになりました」
認知症の治療方法
認知症だと診断された場合、どんな治療方法があるのでしょうか。
「繰り返し申し上げますが、認知症だと診断された段階では、かなり症状が進行しており、元に戻すことは困難です。現在は、まだ治療法が確立されていません」
しかし、進行を抑えるための薬はあるそうです。
「アリセプトという、アルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症の症状進行を抑制する薬があります。それ以外は、まだ研究途中のものばかりですが、IPS細胞を脳に移植するなどの研究がなされているんです。
ただ、先ほどの図で説明すると、すでに壁などが焼け落ちてしまった状態で投薬をしても、残っている何本かの柱を少し補強する、という程度のことでしかありません。柱はいずれ折れて、家は倒れてしまうでしょう」
現在は、燃えている火を消す薬も、複数開発途中のようです。
「いろいろな薬の治験が進んでいます。きちんと効果があるかどうかは、これから結果が出てくるでしょう。けれども、まずはゴミを溜めないこと、定期的に洗い流すことが大切です。それには、早めの診断・対策が必要。まだ、ゴミが溜まっている、火がつきそうな状態なら、掃除をすればいいだけですから」
重要な、40代からの生活習慣病対策
しかし、こうした薬も、血管が弱っているとうまく効果を発揮してくれません。
「血管をもろくする最大の要因は、生活習慣病です。高血圧、糖尿病などは、血管を傷める大きな原因です。血圧は生活習慣の改善や投薬で、80~120の数値を守りましょう」
また、糖尿病が進行すると、眼底出血からの失明、血行不良で壊死を起こして脚を切断、腎機能の低下で人工透析をしなければならなくなるなど、さまざまな合併症が現れます。
「これらはすべて、血管がもろくなったことで起きるのです。脳梗塞なども、脳の血管がもろくなると、リスクが高くなります。つまり、循環器系をしっかり正常に維持することが、認知症の予防にもつながるということ。WHOの報告でもいわれていますが、生活習慣病の改善は、認知症の予防になるのです」
循環器がガチガチ、ボロボロになっていたら改善は望めません。生活習慣病の症状が出始める40代からの健康コントロールをぜひ心がけましょう。
次回は、認知症の危険要因を減らすための、生活習慣の改善について伺います。
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