正しく知る“認知症”

他人事ではない病気

　厚生労働省は、2025年には日本における65歳以上の5人に1人が認知症になる、という予測を立てています。
　自分はまだまだ若いと思っていても、いつ発症するかは予測ができないでしょう。また、家族が認知症になると、介護も非常に大変です。

　そもそも、認知症とはどのような状態のことをいうのでしょうか。
　一般的なイメージとして、物忘れが激しくなる、時間がわからなくなる、といった症状が思い浮かぶのですが……。

「認知機能が低下してしまうことで、自立した日常生活が送れなくなる状態のことをいいます」と内田先生。

　たとえば、自宅のトイレに行けなくなってしまうのは、どういった理由なのでしょうか。

「トイレの場所がわからない、排せつがうまくできない、ということではありません。トイレに行きたいと思っても、自分が今いる場所や、行くべきところがわからなくなってしまい、たどり着けないんです」

　普段から住んでいる家ならば、特に意識せずとも、目的地に行くことができるはず。それは、自分の生活圏内であれば、仕事場や最寄り駅でも同様でしょう。

「トイレに限らず、例えば外出先であっても、通い慣れた場所であれば、特に何も考えずとも行きたい場所に足が向かうはずです。そういうことができなくなるのが、『認知症』という状態です」

　人間は歳を重ねると、「フレイル」と呼ばれる状態になります。フレイルとは「壊れやすい」という意味で、歳を重ねて体力が落ちるなどの理由で、健康な生活を送ることが困難になる状態を指します。

　けれども、認知症はそうしたこととは異なり、脳の認知機能がおかしくなってしまうこと。

　認知症の典型的な症状としては、次のようなことが起きるそうです。

「認知症の兆しとしては、たとえば辻褄の合わない物忘れが顕著に、頻繁に起こるようになります。ただし、現状の医療システムだと、そういう状態になるだけでは認知症という診断は下されません。

　認知度テストのスコアや、MRI、PET検査などを行って、総合的に判断をするのです。そうした検査で認知症と診断される状態の場合、すでに、日常生活を介護なしで行うことはほぼ無理だといえるでしょう」

　認知症は、大きく4種類に分類されるそうです。

・アルツハイマー型認知症
　物忘れが先行するタイプで、認知症全体の6～7割を占める。アルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳内に蓄積し、正常な神経細胞に障害を与えることで発症すると考えられている。

・脳血管性認知症
　脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などを起こすことで、発症するもの。

・レビー小体型認知症
　脳内にレビー小体という異常なタンパク質が溜まることで起きるが、画像診断でははっきりと現れない。初期には幻視や妄想、パーキンソン病などの症状が出る。

・その他前頭側頭型認知症など
　前頭葉と側頭葉を中心とする神経細胞が障害され、画像では前頭葉と側頭葉に顕著な脳の萎縮が確認される。常動行動といって同じことを何度も繰り返す。万引きをしたり、相手に対する遠慮ができなくなったりする。

　こうした認知症研究は日々進歩していますが、まだまだ未知の部分が多いと内田先生はいいます。

「アルツハイマー型や脳血管性認知症は原因がわかりやすいのですが、レビー小体型と前頭葉型認知症に関しては、まだまだ研究の道半ばで、完全に原因が解明されているわけではありません」

　認知症は、75歳以上で、発症する人が大きく増加するそうです。

「ただし、数として現れるのは、自立して日常生活ができないレベルの症状が出ている人という基準です。日本の医療システムでは、先に述べた判断基準で認知症と認定されない限り、治療や介護をしようという形になりません。

　その段階では、認知症の症状を大幅に改善したり、介護度を下げて日常生活を取り戻したりすることは難しいでしょう。現状では完治する病気ではありませんから、起きる要因を排除したり、兆候を早く見つけて認知症にならないようにしたりする。

　もし発症した場合は、進行を止める、遅らせる、ということを考えなければいけないのです」

　次回は、認知症になるとどうなるのか、どう対処していくのかについて、具体的に伺います。