“おいしい趣味”のスタート[第3回]

育てやすい野菜を選んで、家庭菜園にチャレンジ!

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野菜選びのポイントは、種と苗で違う

 藤田先生によれば、野菜を種から栽培する場合は、育てやすさに注目すると良いのだそうです。

「種の時点では、どのように育っていくか、まだわかりません。『育てやすい種類の野菜かどうか』に注目して選びましょう」

 一方、苗を買う際は、育てやすさだけでなく、「良い苗を見極めること」が必要なのだといいます。

「苗の場合は、同じ種類の野菜であっても、買ったものによってしっかりと育つかどうかが変わってきます。つまり、苗選びのポイントを知っておくべきなのです」

 苗を選ぶ際は「葉」を見ると、良いものがわかるとのこと。

「葉がしっかりと育っているか、見極める必要があります。たとえば、サニーレタスであれば、双葉がついていて、本葉(真ん中の葉)が5~6枚の苗を選びましょう。トマトは、双葉があって本葉が7~9枚程度のものを選べば、立派に成長する確率が上がります」

 野菜によって違いがあるようですが、葉の生育状況をしっかりと見るということですね。

「加えて、葉の表裏をよく観察して、変色していないかをチェックしましょう。色が変わっている場合は、病気にかかっていたり、根に問題があったりする可能性が高いのです」

 また、苗を購入するタイミングにも気を付けてください。

「4月中旬までは寒いことが多いので、できれば下旬に買うのをおすすめします。そうすれば、寒さが厳しい時期を過ぎているので、安心して植えられるでしょう。中旬と下旬でたった10日程度の違いですが、野菜にとっては大きな環境の変化なのです」

 苗から育て始めるのは4月下旬から、と覚えておきましょう。もちろん、第1回でお伝えしたように、寒さ対策はしておいた方が良いですね。

簡単に育てられる、おすすめの野菜とは?

 春から家庭菜園を始め、種から育てる場合は、どのような野菜がおすすめでしょうか。

「『ほうれん草』『小松菜』『ラディッシュ』『ミニチンゲンサイ』ですね。これらは、植えてから1ヵ月程度で収穫できる野菜で、病気や寒さにも強く、初心者にうってつけだといえるでしょう」

 早く収穫できるうえに、比較的簡単に育てられるのは魅力的です。

「苗から育てる場合は、『サニーレタス(リーフレタス)』がおすすめです。穏やかな気候で栽培するのが最適ですが、短期間であれば、猛暑や氷点下5℃の厳しい環境にも耐えてくれます。したがって春先の不安定な気温にも強いのです。また、およそ30日程度で収穫できるので、難易度は低めといえるでしょう」

 ただし、上で紹介した野菜に共通して、注意するポイントもあるのだとか。

「これらはほとんどが葉物野菜のため、虫害を非常に受けやすいです。育てる際は、防虫ネットや自然農薬で、害虫対策を怠らないようにしてください」

毎日の心がけと、家庭菜園のやりがい

 家庭菜園をするうえで、意識しておくべきことがあると藤田先生はいいます。

「毎日の心がけとして、野菜の状態をしっかりと観察し、気になるところがあったら迅速な対応をすることが大切です。もし、しおれかけていたら、水をあげる量を調整する。初心者は水をあげ過ぎることが多いので、『土が乾いたら水をやる』ように徹底しましょう。虫や病気から被害を受けているなら、適切な農薬を使う。とにかく野菜の変化を見逃さないよう、常に気を配っておきたいものです」

 そうした心がけのもと、毎日の水やりや観察を続けていくうちに、愛着が生まれ、深い喜びを得られるのでしょう。

「種を植えて芽が出てきたときや、野菜を収穫するときは、私もいまだに感動します。初心者の方であれば、その感動はもっと強いものになるはずです。目に見える形で努力が報われるのは、本当にうれしいことですからね」

 これが、まさに家庭菜園のやりがいです。

「さらに、家族との仲が深まります。みんなで同じ目的を持ち、一所懸命に作業することで、今までよりも強固な絆が生まれていきますよ」

 たしかに、共通の趣味として、楽しみながら家庭内のコミュニケーションを深められそうですね。また、今は家庭菜園を始めるにはぴったりの状況とのこと。

「少し前まで、シニア世代にブームがきていました。今はコロナ禍で在宅時間が増えて、若い世代の間でも盛り上がってきています。老若男女で楽しまれているため、家庭菜園用品が手に入りやすい環境にもなっているでしょう」

 春になり、暖かくなってきたら、家庭菜園を始めるのには最適なタイミングです。幅広い世代で親しまれて、以前よりも身近になっている今、ご自宅のベランダや庭で、新しい趣味をスタートしてみてはいかがでしょうか。

■お話をうかがった方

藤田智さん

恵泉女学園大学副学長・人間社会学部教授。専門は園芸学、野菜園芸学。家庭菜園や市民農園の指導、普及活動に積極的に取り組む。わかりやすい解説と軽妙な語り口が人気で、メディア出演・講義多数。主な著書に『NHK趣味の園芸 やさいの時間 藤田智の新・野菜づくり大全』『これで失敗しない家庭菜園Q&A』など。

文◎熨斗秀信
撮影◎平野晋子
写真提供◎Shutterstock

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