陶磁器が彩る「美しい日常」[第4回]

住まいを自在に彩る「タイル」の力

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土と火から生まれる自然の風合い

 やきものから発展していった日本のタイルですが、現在では、ビルの外装などに使われる強度の強いものから、多様な色や質感でインテリアのワンポイントになるものまで、実にさまざまな種類がつくられています。
 中には、やきものの風合いをそのまま生かしたタイルもつくられています。

「常滑や信楽、備前など、素朴なやきものの風合いを生かしたタイルは、土と、窯で焼くことから生まれるあたたかみと力強さが魅力だと思います。例えば、“焼き締め”と呼ばれる無釉のタイルは、土の性質、窯の雰囲気、炎が当たる所と当たらない所で生じる色むらなど、なんとも味のある自然な表情が生まれるのです」

 タイルは土や火という自然の中から生まれるものなので、その独特のあたたかみは、人間の本能的な部分にもはたらきかけます。

 また、焼き締めのタイル以外にも、やきものの仕上げに使われる釉(うわぐすり)の表情を生かしたタイルもつくられています。多様な色やテクスチャーを表現することができ、素朴な風合いも楽しめます。

 釉薬を施したタイルは、釉(うわぐすり)が窯の中の炎によって溶けることで生まれる、光沢のある艶やかな表情が魅力。和風の落ち着きのある空間も演出できます。

 もちろん、こうした「和」の雰囲気をもったタイル以外にも、カラフルなタイルをワンポイントに使ったり、光沢感のあるタイルで空間をゴージャスに見せたりと、タイルをインテリアに活用する方法はいろいろあります。

「私が最近面白いと思うのは、一般的に屋外で使われるような、素朴で荒い雰囲気のタイルを内装で使った例です。外装用のタイルには、ごつごつしたものや素材感の強いものもあるのですが、そういったものをあえてリビングやオープンキッチンの壁などにとり入れることでヴィンテージ感が生まれたりして、小さなスペースがとても印象的に見えるのです。従来の“タイル”のイメージにこだわらずにタイルを探してみると、色や形・テクスチャーなど選択の幅が広がり、好みに合った個性的な空間ができるかもしれません」

機能性と装飾性を兼ね備えた建材

 タイルは装飾性とともに、優れた機能性をもつ建材です。機能として挙げられるのは、まずは防水性。昔から水を使うトイレやバスルーム、キッチンにタイルを使うのは定番です。
 最近では防水性以外にも便利な機能をもつタイルが増えているといいます。

「『エコカラットプラス』という商品は、調湿や消臭といった機能があります」

 こうしたタイルは、マンションなど気密性の高い部屋に張ることで湿気をコントロールしたり、ペットのいる家庭や介護シーンでのにおいを軽減するなど、快適な住まいを実現するタイルとして注目されています。また、細菌の増殖を抑える抗菌機能をもつタイルもあるといいます。

 こうしたタイルは、目に見えない機能で暮らしを快適にしてくれます。

広がっていくタイルの用途

 現代の住空間を彩るタイルは、古くから建築の装飾材として使われ、またモザイクタイルや破砕したタイルは、ガウディの建築や岡本太郎のモザイク壁画などでも知られるように、個性的な建築表現やパブリックアートの素材としても用いられてきました。

「最近のタイルの使われ方として刺激を受けたのが、2020年に開業した池袋の商業施設『Hareza池袋』のアーバンスクリーンに使われている、造形作家 岡﨑乾二郎さんによる芸術的なタイルのデザインですね。一見タイルが主役なのですが、そこに集う人の営みを引き立たせる背景、屏風(スクリーン)の機能を意図しているとか。まさにタイルとはそういう存在なのかもしれません」

 あまり知られていない例として、アメリカ航空宇宙局(NASA)が運用していた有人宇宙機のスペースシャトルにも、タイルは使われていました。こちらは非常に高い断熱性をもち、なんと1200℃以上の超高温で熱されても、素手で触ることができるそうです。

 また、視野を広げて世界を見渡しても、建物の装飾や生活の中でたくさんのタイルが使われています。

「イスラーム圏の国々では、タイル文化は宗教とも結びつき、モスクなど寺院の装飾に使われています。デザインや色彩の組み合わせが非常に美しく、芸術品のような魅力的なタイル装飾がたくさんあります。また、オランダの『デルフト焼』というタイルは、中国や日本の染付磁器への憧れから生まれたタイルです。白地に藍色の絵付けというスタイルが、東洋のやきものを思わせますね。当時、このタイルを、部屋の巾木(はばき)の部分に使うことで、汚れやすい壁と床の接点をきれいに保つようにしたのでしょう。これも装飾と実用を兼ねたタイルの使用例ですね」

「各国のタイルには、その国の時代背景や人々の暮らし、国民性などが現れているのもユニークなところです。先ほどご紹介した日本のタイルにも、古くから暮らしの中でやきものに親しんできた私たち日本人の感性にフィットするところがあるのかもしれません。それがインテリアとして身近に楽しめるのは大きな魅力ですね」

 暮らしを彩る魅力にあふれたタイル。土と火から生まれるやきものの風合いを生かしたタイルから、カラフル、モダン、シックと、さまざまなテイストをもつタイルまで、今は自分の感性やアイデアに合わせて様々なタイルが選べるようになりました。
 自分らしい空間や快適な暮らしづくりに、上手に活用してみませんか。

≪お話を伺った方≫

尾之内明美さん

INAXライブミュージアム館長。ミュージアムは愛知県常滑市にあり、やきものやタイルの展示や、ものづくりの体験を楽しめる。「世界のタイル博物館」「窯のある広場・資料館」「土・どろんこ館」「陶楽工房」「ものづくり工房」「建築陶器のはじまり館」の6つの館で構成。

文◎濱田麻美
写真提供◎INAXライブミュージアム

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)