陶磁器が彩る「美しい日常」[第2回]

土・人・技が息づく「六古窯」と暮らす

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数百年を生き延びた6つの産地

常滑自然釉壺。12世紀の常滑焼を代表する作品の一つ。
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

 やきものの伝統的な産地である、越前焼(福井県越前町)、瀬戸焼(愛知県瀬戸市)、常滑焼(愛知県常滑市)、信楽焼(滋賀県甲賀市)、丹波立杭焼(兵庫県篠山市)、備前焼(岡山県備前市)の6カ所を指して、「日本六古窯」と呼びます。

 古陶磁研究家・小山冨士夫氏によって命名され、2017年春には日本遺産にも認定されました。

「日本六古窯は、もともと『中世六古窯』と言われていていました。その由来は、中世(平安時代後期・11世紀後半から、戦国時代・16世紀)からやきものを産出していて、現代も続いている産地が、この6カ所だけだからということです。つまり日本で一番古いやきものの産地ということになります。そして、この六古窯にそれぞれの特徴が生まれたのには、各地の歴史が関係してきます」

 中世の日本には80カ所以上の窯がありました。現在ではこの6カ所以外、すべてなくなってしまったといいます。

「他の窯がなくなった理由はいろいろあります。やきものに適した土を安定して得られなかったり、流行の大型製品を焼く技術を得られなかったり、重いやきものを運ぶための船などの手段がなかったり。そうした所は、競争に負けて衰退していきました。また、窯を支えるパトロン的な存在を失ったということもあったかもしれません。このようないろいろな条件をくぐり抜けて最後まで残ったのが、この6カ所の窯だったのです」

 六古窯の中で中心的な産地の一つになっていたのが「常滑」です。

「常滑の粘土の量や質の高さ、技術などは、中世の頃から評価されていて、大変人気があり、貴重なものでした。800キロ以上も離れた現在の岩手県平泉の遺跡から常滑の壺が出土します。あれだけ重くて割れやすいものを、11世紀当時の運送手段で運んだと思うと、どれだけ大変だったかが想像されます。それだけ価値のあるものだったのです」

備前の茶入。よく焼き締まり、土と火が作った自然な風合いが魅力。
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

 常滑の優れた窯の技術は、信楽や越前、丹波など、他の産地に広まっていきました。
「逆に言うと、常滑の技術をとり入れたところが、やきものの産地として生き残ってきたともいえます」と、森さん。
 こうして常滑のやきものは、東日本の陶器市場の中で大きな位置を占めるようになってきました。

 また、常滑の窯の技術をとり入れた他の産地を見てみると、越前は日本海側の需要をまかない、信楽や丹波は都に近かったこともあって都市部で増大する需要をまかなっていました。

 一方、西日本で大きな市場を築いていったのが備前です。

「備前焼は六古窯の中でも少し違った特性をもっています。日本のやきものの発展には、須恵器(すえき)→猿投(さなげ)窯→常滑(とこなめ)という進化の流れがあるのですが、須恵器から直接発展した窯が備前焼なのです。そのため、窯の構造が他と異なり、焼き上がりも違います。高温で約2週間以上焼き続けるため、鉄のように焼き締まり、金属の光沢のようなつやつやした質感が出るのです。土の性質や、窯への詰め方や窯の温度の変化でも焼き上がりは異なります。今でも備前は釉薬を掛けない焼き締めがメインで、そのため土の味を生かすことにこだわって、土の味わいを生かしながらもユニークな作品を作るたくさんの作家さんが生まれています」

江戸時代に作られた瀬戸焼の磁器。繊細な絵付けが美しい。
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

 また、六古窯の中で唯一、釉薬を使ってきたのが瀬戸です。

「釉薬を使う瀬戸の技術は、『茶の湯文化』の流行でやきものの種類が一気に広がった安土桃山時代に美濃に伝えられ、そこから志野、織部などが生まれてきました。そして江戸時代後期には磁器の大産地となりました。瀬戸も今のやきもの文化をつくってきた一つの大きな流れとなった産地です」

 こうした六古窯のそれぞれの歴史が、各産地の特性をつくってきました。ただ、どの産地も長い歴史をもつので、その間にさまざまな技法が試され、バラエティあふれる陶磁器をつくるようになりました。
 そのため、現在ではそれぞれの産地のやきものの特徴を、一括りで表現するのは難しくなっています。

暮らしの中でやきものを楽しむこと

 ご紹介してきたとおり、本来日本はやきものがさかんな国ですが、最近ではお茶を飲むにもペットボトルという人も多くなりました。ライフスタイルの変化とともにやきもの業界全体で見ると、規模は縮小しつづけているそうです。

「まずはみなさん日本のやきものの面白さに気づいてほしいと思っています。日本のやきものは、お茶碗一つにしても長い歴史があるのです。陶磁器の勉強をするというと美術館や博物館に行くことを想像されると思いますが、美術館や博物館に並んでいる陶磁器と同じ歴史ある窯で作られたお茶碗で、私たちはお茶を飲むことができるのです」

味わいのある器が贅沢な時間をつくってくれる。

 見たり飾ったりして楽しむ美術品でありながら、それを暮らしの中で使うことができる陶磁器。それは他の美術品にはない魅力です。

「自分が本当に気に入った素敵な急須とお茶碗を使ってお茶をいれて飲むだけで、気持ちがゆったりします。今の人は忙しくてそんな時間がないと思われるかもしれませんが、でも実は逆なのです。そういったゆったりした時間を器が作ってくれる。やきものにはそういった不思議な力があるのです。お気に入りのやきものを見つけて、暮らしにとり入れてみてください。それだけで気忙しい毎日の中で、心を解きほぐす“ゆとり”が生まれると思います」

 次回は、こうした歴史のあるやきものの技術から生まれ、近代建築を彩ってきたタイルについてご紹介します。

(第3回に続く)

≪お話を伺った方≫

森由美さん

戸栗美術館で学芸員として東洋陶磁と展示企画を学び、日本陶磁協会では専門月刊誌『陶説』の編集にも携わる。その後、独立して陶磁器や伝統文化に関する執筆、講演活動を行う。戸栗美術館学芸顧問、女子美術大学非常勤講師、NHK文化センター講師。著書『ジャパノロジー・コレクション 古伊万里』(角川ソフィア文庫)ほか。テレビ東京系列局『開運!なんでも鑑定団』出演。

文◎濱田麻美
写真提供◎ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)、Shutterstock

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