陶磁器が彩る「美しい日常」[第1回]

日本の「やきもの」は、なぜ魅力的なのか

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多様なやきものが息づく理由

縄目をつけた文様と装飾性の強さが特徴の「縄文土器」。低温で野焼きにて焼成されていた。
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

 日本の陶磁器は器としての機能を果たすという役割だけでなく、工芸品としても高い評価を受けています。日本でこれほどまでにやきものが盛んになり、多くの人に愛されているのには、どんな背景があるのでしょうか?

「日本の陶磁器は、とても魅力があります。そしてその魅力の原点になっているのが、長い歴史から生まれた多様性です」

 日本のやきものは、1万年以上前の縄文土器に始まります。そこから弥生時代に稲作文化とともに発展し、形や文様が簡素な弥生土器が生まれました。
 それほどまでに古い時代から、日本人の生活の中でやきものが使われていたのです。
 そんなやきものが一段階進化したのが、古墳時代から平安時代にかけてです。

「朝鮮からの技術が入ってきたことをきっかけに、焼く際に『窯』が使われるようになりました。窯を使うと、高い温度で焼くことができます。そうして生まれたのが『須恵器(すえき)』です」

 その後、平安時代になると、窯で須恵器を焼いている際に偶然に素焼きにツヤを出し、水の浸透を防ぐガラス質の成分「釉薬(うわぐすり)」のようなものが発生し、そこからやきものに釉薬を掛けるという技術が生まれてきました。
 ただ、平安時代が終わるころになると、釉薬は使われなくなり、進化のステップが止まります。これはどうしてでしょう?

「今はみなさん、やきものというと、食器(器)を思い描く方が多いですよね。ただ、当時のやきものの中心は、甕(かめ)、壺(つぼ)、鉢(はち)などの生活用品や道具でした。陶磁器の食器は実際に手にとってその形や手触りを楽しむこともありますが、甕、壺、鉢などは毎日の生活で使う、まさに実用品です。そのため、わざわざ釉薬で装飾する必要がなかったのです」

「茶の湯」とともに花咲いた「やきもの文化」

千利休が打ち立てた「茶道」の発展とともにやきものの種類は爆発的に増えた。
織部扇形蓋物 東京国立博物館 Colbase

 その後、日本のやきものの歴史で一番の転換期といわれている安土桃山時代に入ります。
 この時期、実にオリジナリティあふれるやきものがたくさん生まれました。
 背景には、千利休が打ち立てた茶の湯文化の流行があったといいます。

「『茶の湯』はこの時代に起きた、とても大きなブームです。もともとお茶で使う茶碗や茶入、水指などは、中国や朝鮮半島の、釉薬がかかったやきものが使われていました。この頃の日本でつくられていたのは、釉薬の掛からない焼き締め陶がほとんど。釉薬がかかったやきものをつくるのは瀬戸だけでした。

 そうした中、自分たちで茶の湯の道具をつくっていこうという動きが出てきたのです。そして瀬戸だけでは生産が追いつかず、瀬戸から技術を引き継いだ美濃を中心に、各地でやきものの生産が一気に広まりました。美濃では今でも有名な織部が、そして西日本では唐津をはじめ萩、高取、有田、薩摩などのやきものの産地が生まれ、種類も爆発的に増えました」

 日本の面白いところは、やきものが発展する中でも、古い形態をとどめたものがずっと残ってきた点。縄文時代から使われていた土器、釉薬をかけず焼き締めただけで仕上げた壺や甕なども、脈々とつくり続けられていました。
 こうして日本のやきものの多様性が生まれてきたのです。
 江戸時代になると、やきものの主役は食器になってきました。そしてやきものの最終段階である磁器も誕生するのです。

海外から見た日本の陶磁器の魅力とは?

割れたり欠けたりした器を漆で接着し、継いだ部分を金で装飾しながら修復する「金継ぎ」

 日本のやきものが世界的に広まっていったのは、17世紀からです。「古伊万里」と呼ばれた磁器が日本からヨーロッパに送り出され高く評価されました。
 また、1862年のロンドン万国博覧会をきっかけに、日本の陶器や浮世絵など日本文化への関心が高まりました。この流れは、19世紀後半にヨーロッパで流行した「ジャポニスム」へと続いていきます。

「海外のやきものは左右対称で、シリーズごとに同じデザイン、絵柄が入れられているなど、きっちりとつくられています。それに対して日本のやきものは、左右対称ではなかったり、器の厚みも均等でなかったりと、独自の美意識が感じられます。そして、その根底にあるのは茶の湯文化です。お茶の世界では、不完全を愛でる美意識があります。

 例えば、指のあとが残ったまま焼きあがったお茶碗とか、割れてしまった器を金で装飾しながら修復する“金継ぎ”などは、日本にしかないものです。そういった独特の感性が海外の方から見ると味わい深く感じるのかもしれません。“和食”は今や世界無形文化遺産となっていますが、評価された理由の一つに盛り付けの美しさも入っています。そしてその盛り付けの大きな要素になっているのが陶磁器です。私は日本の陶磁器も含めて世界無形文化遺産として評価されているのだと思っています」

 第1回は、日本のやきものの歴史や魅力についてお伺いしてきました。
 次回は中世の頃から続く6カ所のやきもの産地、「日本六古窯(ろっこよう)」についてご紹介します。

(第2回に続く)

≪お話を伺った方≫

森由美さん

戸栗美術館で学芸員として東洋陶磁と展示企画を学び、日本陶磁協会では専門月刊誌『陶説』の編集にも携わる。その後、独立して陶磁器や伝統文化に関する執筆、講演活動を行う。戸栗美術館学芸顧問、女子美術大学非常勤講師、NHK文化センター講師。著書『ジャパノロジー・コレクション 古伊万里』(角川ソフィア文庫)ほか。テレビ東京系列局『開運!なんでも鑑定団』出演。

文◎濱田麻美
写真提供◎ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)、Shutterstock

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