お正月、「餅」が10倍おいしくなる!! 第3回

地方色豊かな日本のお雑煮レシピ!

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丸餅か角餅か?

 日本のお雑煮文化は東西で大きな違いがあり、丸餅は京都を中心とした「西の文化」、角餅は江戸を中心とした「東の文化」です。

 お餅は本来、丸めるものだったそうです。鏡餅もそうですが、丸めたお餅は「円満」を意味し、また「刃物を入れることを嫌った」という側面があるようです。鏡餅を食べる「鏡開き」で刃物を使わず、叩いて細かくするのも、この文脈にあるのでしょう。

 対して角餅は「のし餅」ともいい、つきたてのお餅を延ばしたもの。それを刃物で切った「切り餅」です。江戸の文化は武家文化でもあり、「敵をのす」という意味合いもあったとされています。また、切り餅は整理しやすく、丸餅に比べて薄いので焼いたり煮たりもしやすいのが特徴です。
 江戸の伝統的な工芸品などを見ると、直線的で繊細な美しさがあります。角餅はその美しさを反映したものかもしれません。

味噌? 醤油?

 お雑煮のバリエーションでもうひとつよく知られているのは「東の醤油味・西の白味噌味」です。江戸文化を中心とした東日本のお雑煮は、基本的に醤油味のおつゆです。この風味を活かすのが、焼いたお餅。東~北日本のお雑煮の基本は「醤油味・焼き餅」です。

 対して、関西圏のお雑煮の中には、少なからず白味噌を使ったものがあります。これは京都の文化。西京味噌とも呼ばれる甘い白味噌を使います。このお味噌には、餅を焼いた香ばしさや焦げよりも、茹でた餅の柔らかな味わいが合います。

 面白いのは、北陸・富山では、醤油味のおつゆなのに茹で餅を使うこと。
 さらに、関西より西の中国地方や九州に行くと、薄口のすまし仕立てや九州の醤油を使ったお雑煮になります。
 山陰地方では、小豆を甘く煮て餅を入れた、東京で言う「ぜんざい」をお雑煮として食べる習慣があるようです。

 郷土の風習や文化を反映したお雑煮ですから、ぜひお国自慢をしながら、いろいろ食べていただきたいと思います。ただし、どのお雑煮も美味しいですから、けんかをせず、丸く収めましょう。

 それでは、代表的なお雑煮を5つ、作り方を交えながらご紹介しましょう。

ミニマルの極み「東京雑煮」

 東京は世界中から人が集まってくる都市なので、家庭の雑煮もさまざまです。東京生まれの方に聞くと、本当にいろいろな雑煮があります。おそらく、ご先祖の土地のお雑煮の名残があるのだと思われます。

 多いのは醤油味の吸い地に焼いた角餅を入れるすまし仕立てです。昆布出汁に削り鰹をたっぷり入れた香りのいい出汁に、ひとつまみの塩と濃口醤油。これに酒がほんの少し、隠し味として入る程度です。
 具材もそれぞれですが、肝心なのは「吸い地を濁らせない」ことです。

昆布のうまみはあまり強く出さず、一瞬沸騰したところに大量の鰹節を入れて火を止め、漉します。味付けは少しの塩と酒、そして濃口醤油。この出汁が東京雑煮の命です。

 鶏肉は、脂が浮かない皮なしの胸肉。あれば、かまぼこも。青みは、ほうれん草か小松菜を下茹でしたもので。それに、焦げ目がついた焼き餅を。「とめ」に、結び三つ葉を使います。大根や里芋などの根菜類は、汁が濁るので使いません。

 無駄を排して隙のない雑煮です。出汁の香り、お餅の香ばしさ、鶏肉の滋味深さ、冬のほうれん草の旨みと甘み、そして三つ葉の爽やかな苦み。あるべき要素がすべてあり、いらないものは一切排除した、究極の雑煮こそが「東京雑煮」だと思います。

味噌のポタージュ「京雑煮」

 東京雑煮と対極のように言われるのが、京雑煮です。白味噌と丸い茹で餅を使うことが特徴です。

 京雑煮も、家庭によってさまざまなスタイルがあります。振れ幅が大きいのは、やはり出汁です。鰹節と昆布の出汁に白味噌を溶くスタイルが一般的ですが、「正月は殺生を嫌う」と、昆布だけの精進出汁を使う家庭も少なくありません。

 とある料亭では、最高級の白味噌はそれだけで完璧な味ということで、水に白味噌をたっぷり溶いて、沸騰せずに弱火にかけて温めるだけだそうです。まるで白味噌のポタージュ、といったところです。

できれば前日から水に昆布を浸けておき、その出汁に甘い白味噌を溶いていきます。沸騰させると風味が落ちます。正月だけは値段の高い、特別な白味噌を使う家も多いそうです。

 具材は、茹でた丸餅に加え、根菜をたっぷり使います。
「祝大根」と言われる細めの大根、鮮やかな朱色の京人参、そして「頭芋」と呼ばれる里芋の親芋です。この頭芋は大きいのですが、一人に1つずつつけるという習慣があります。一家の主人が一番大きいものを食べるのだそうです。

 関西以外では、いわゆる「頭芋」はなかなか手に入りませんから、海老芋や八つ頭、里芋などで代用してもいいと思います。
 大きくて食べ切れないので、最近は頭芋も小さく切るようです。青みにはウグイス菜と呼ばれる、天王寺かぶの若い葉を使います。具材はそれぞれ昆布出汁で下茹でして盛り込みます。

「殺生を嫌う」「京料理の真髄は精進」といいながら、昆布出汁だけの味噌椀に、こっそり花かつおを散らして食べる人が多いという話もあります。

ハゼの焼き干しを使った「仙台雑煮」

 続いては東北・仙台の雑煮です。一番の特徴は、松島湾で取れたハゼを焼いてから干した「焼き干し」で取る出汁です。仙台の市場などには、藁で縛られた15cmもあろうかという大きなハゼの焼き干しが並ぶそうですが、最近は人気がないのか、なかなか手に入りません。
 今回は、瀬戸内産のハゼの焼き干しで作りました。

いまや超高級品のハゼの焼き干し。

 魚の焼き干しは、昔から日本中で行われていました。東京湾から千葉の漁師町にかけては、秋にハゼや「チンチン」と呼ぶクロダイの子を岸壁などから延べ竿で釣って、焼き干しにして正月の雑煮に使う習慣がありました。
 栃木では「アイソ」と呼ぶ3~5月の婚姻色のウグイを焼き干しにして、串を打って焼き干しにし、わらづと(わらを束ねた包み)に刺して保存しました。

 現在では鰹や煮干しが広く流通するようになったので、こうした文化はどんどん廃れています。せめてお正月だけでも、こうした地域の文化に思いを馳せたいものです。

 また、仙台雑煮では「引き菜」と呼ばれるものを使います。人参、大根、ゴボウ、芋がらなどを千切りにして、鍋で油を使わず炒り煮します。それを12月の氷点下の空気にさらして一晩凍らせて、お椀の底に入れるのです。家庭で作るなら、冷凍庫で凍らせればいいでしょう。

 ハゼの焼き干しを水に浸け、一晩おいてから翌朝火を入れて出汁を取ります。ハゼは煮崩れないうちに取り出しておいてください。昆布を一緒に使う方もいます。
 味付けは、酒、みりん、塩、濃口醤油です。みりんを使うので、東京雑煮より少しこっくりした味になりますが、ハゼの風味を殺さないようにしたいものです。

 具材は家庭によりそれぞれ。下茹でしておいた大根、人参、里芋、ゴボウ、焼き豆腐などを入れ、お餅は開いた角餅です。
 欠かせないのは「芹」。東北では根っこも食べるので、その場合根についた泥を歯ブラシなどできれいにしてから下茹でしましょう。東北らしく、腹子(いくら)をトッピングし、最後に出汁を取った後のハゼをのせてできあがりです!

出世魚を使う縁起ものの「博多雑煮」

アゴの干物。大きな胸びれがついています。

ブリは身が見えなくなるくらいがっつりと塩をした方が、臭みが抜けます。

 九州にもいろいろなスタイルの雑煮があります。中でも博多雑煮は特徴的。
 まずは出汁。アゴと呼ばれるトビウオからとった出汁を使います。こちらは、九州以外でも比較的手に入りやすいと思います。そのアゴの出汁を活かすため、薄口醤油、酒、塩などで繊細な味に仕上げた吸い地を作るのです。さらに、干し椎茸を戻した出汁を合わせます。

 そして、大きくなるに従って呼び名が変わる出世魚「ブリ」を使います。生のままではどうしても生臭くなるので、両面に塩をたくさん振って1~2日寝かせます。塩を洗って、塩気が強いようなら少し塩抜きをして使いましょう。

 具材は里芋、人参、干し椎茸などさまざまです。欠かせないとされるのが「かつお菜」と呼ばれる高菜の一種。
 出汁を軽く沸騰させたら、そこに塩を落とし、表面の水分と臭みを拭ったブリを入れて火を通し、盛り込んでできあがりです!

甘いかしょっぱいか?「あん餅雑煮」

 最後に変わり種のお雑煮を。四国・香川県や徳島県で食べられる「あん餅雑煮」です。

 つきたてのお餅であんこを包んだ「あん餅」を、京都風の白味噌スタイルのおつゆでいただくユニークな料理です。出汁は鰹と昆布を使うことが多いようですが、家によっては瀬戸内海の名産「いりこ」を使うようです。大根や人参も入り、青のりを散らす人も。

 聞いただけでは味が想像つかないかもしれませんが、食べてみるとハマる人も少なくないとか。ぜひ、お試しください。

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