和食に合う日本ワイン[第4回]

ヨーロッパ品種に日本料理を合わせる

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シーフードに合うシャルドネ

■奥出雲葡萄園 シャルドネ アンウッディッド(参考価格 2640円)

 島根県雲南市の山の中にあるワイナリー、奥出雲葡萄園。山梨と違って、島根県では「甲州」「マスカット・べーリーA」といった、日本固有のぶどうを育てるワイナリーはあまり多くありませんでした。そこでこのワイナリーでは、ひとつには山ぶどうなど個性的な品種をワインにすることに取り組み、同時に世界標準の品種であるシャルドネやカベルネ・ソービニオンに力を入れたのです。

 奥出雲葡萄園のシャルドネは、栽培地や栽培家によって、つまりはぶどうの個性を見極めながら、現在は4種類が作られています。樽で貯蔵したもの、樽で発酵したもの、瓶内二次発酵をさせたスパークリングワイン、そしてステンレスタンクで発酵させ、樽に貯蔵しない(unwooded)このワインです。

 アンウッディッドは、樽由来のバニラ香や複雑なニュアンスが加わらないぶん、ぶどう本来の実力がはっきりわかるワインです。日本で育てたぶどうを日本で醸した、まさに「日本」が表現されているワインだといえるでしょう。神話の国・出雲の風土を映したこのワインは、切れが良く、酸がしっかりとしていて、青りんごや洋梨の華やかな香りがします。

 ワイナリーでは「天ぷらやお刺身、白身魚のカルパッチョなどによく合う」といっています。白ワインは魚料理全般によく合います。今回は、「炭」を使った海鮮の焼きものに合わせました。

「雨でもOK、『伊勢コンロ』でお部屋BBQ! 」という記事で紹介した、お部屋の中でも炭火が使える萬古焼の伊勢コンロで、海老、ししゃもなど串に刺した海鮮をさっとあぶりながらいただきましょう。その際、ワインは8℃くらいまで冷やすのがベターです。ゆっくり食事をしたいならワインクーラーを用意して、ワインの温度が上がりすぎないように気をつけましょう。

メルローと鴨。日本スタイルなら山椒でくわ焼きを

■メルシャン シャトー・メルシャン 長野メルロー(参考価格 4200円)

 赤ワインで紹介するのは、日本を代表する大手ワイナリーのひとつ、メルシャンの「シャトー・メルシャン 長野メルロー」です。
 メルシャンは山梨、長野に広く自社畑を持ち、日本のワイン産業を発展させてきたワイナリーのひとつ。最近では、長野・上田市に2005年に開いた椀子ヴィンヤードがさらに進化して、2019年に椀子ワイナリーとなりました。

 そこでは、日本ならではのワインの可能性を模索するため、さまざまな品種のぶどうが植えられています。
 現在16年目のぶどうが、今後20年、30年と育って行き、いったいどんなワインが産み出されるのかがいまから楽しみです。

 そんなメルシャンのこのメルローは、グラスに注ぐと深いガーネット色をしています。カシスやブラックチェリーなどの黒い果実の充実した香りに、スパイス、ドライフルーツ、チョコレート、バニラなどの複雑な香りが加わります。心地よい酸、ほどよいタンニン。しっかりした造りの、長く熟成させる楽しみもあるワインです。

 シャトーメルシャンの責任者である安蔵光弘さんとお話ししたところ「うなぎにも合うんですよねえ。もちろん、鴨などの肉料理にもぴったりです」とアドバイスをいただきました。そして「山椒がきいているとより美味しくなります」とも。

 そこで、合鴨の抱き身をタレで付け焼きする「くわ焼き」に仕立ててみました。醤油・みりん・酒を、4:2:1の割合で合わせたつけ汁に、夏の間にあく抜きをして冷凍してあった実山椒をたっぷり加え、その中に鴨を1~2時間浸します。もし実山椒がなければ、粉山椒を加え、さらに柚子やかぼすの皮を少し加えると良いでしょう。

 熱したフライパンで鴨の皮目をこんがりと焼いてから、予熱したオーブンまたはオーブントースターに入れ、180℃で10分くらい火入れをします。レアが好きな方はもう少し短くてもいいでしょう。
 焼き上がったらオーブンから出し、アルミフォイルに包んでしばらく休ませ、スライスをします。焼いている間に、鴨を焼き付けたフライパンで長ネギを焦げ目が付くように焼き、つけ汁をかるくかけて仕上げておきます。

 やわらかく仕上がった鴨に、日本のメルローはとてもよく合います。
 料理そのものは難しくありませんから、「ちょっとごちそうを」という日にぴったりです。


 4回に渡って、日本ワインと和食のマリアージュについてお伝えしてきました。「日本ワインが世界のワインと比べて美味しくない」というのは誤解です。日本の気候や風土で育ったぶどうで丁寧に作られた日本ワインは、他の国のワインでは味わえない美味しさがあります。そして、和食、特に家庭料理ともよくなじみます。これをきっかけに、ぜひ、和食と日本ワインにトライしてみてください。

日本の風土が表現された専用品種のワイン

 日本では「甲州」「マスカット・ベーリーA」といった、国内にルーツを持つぶどうだけでなく、ヨーロッパを中心に世界で栽培されるぶどうを育てる試みがなされてきました。
 カベルネ・ソービニオン、メルロー、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニオン・ブランなど、さまざまなぶどうの苗木を海外から持ってきて日本に植えてみたのですが、一部を除き、なかなかうまくいきませんでした。

 例えばカベルネ・ソービニオンは、うまく果皮が色づかない。シャルドネは糖度が上がらない。栽培家たちは、もともと日本にはなかったぶどうを育てることに苦労してきたのです。
 栽培が難しい最大の理由は、雨の多さ。ワイン用として高い品質のぶどうは、雨が少ない地域のほうが育てやすい側面があります。

 しかし、さまざまな工夫や技術の開発を積み重ねられ、日本でも高品質のぶどうが収穫できるようになってきました。特に赤ワイン用ではメルローという、フランス・ボルドー産赤ワインの主要品種のひとつがうまく育ちました。
 山梨のサドヤ醸造所など、メルローに力を入れているワイナリーはいくつもありますが、長野県では塩尻を中心に積極的にメルローの栽培に取り組み、充実したぶどうを育てています。白ワインでは、世界的に最も人気があるシャルドネが日本でも多く栽培され、日本中で次第にいいぶどうが穫れるようになってきました。

 では、それらのぶどうで、ボルドー産のような偉大な赤ワインや、ブルゴーニュの素晴らしい白ワインのような最高級ワインそっくりのお酒が作れるかというと、それは違います。
「ワインはテロワールを表す」という言葉があるように、その土地で育ったぶどうには、その土地ならではの個性があるからです。醸造家は、その個性を殺さず、持ち味を最大限引き出すことで、その土地ならではのワインを醸しているのです。


文・レシピ考案◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
撮影◎大西尚明
スタイリング◎吉田千穂

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