和食に合う日本ワイン[第3回]

入門におすすめの「ロゼ」と「スパークリング」

空間
その他
関心
ライフスタイルレシピ

ロゼワインと治部煮のマリアージュ

■Cfaバックヤードワイナリー
 Diavolette 01 HAL / Diavolette 02 NOD(参考価格 各2600円)

 Cfaバックヤードワイナリーは、栃木県足利市にある新しく、小さなワイナリー。代表の増子敬公さんは、日本のいくつものワイナリーで長年、醸造コンサルティングを務め、この20年ほどは新しいワイナリーの立ち上げのサポートをしてきた、日本ワインブームの立役者の一人です。

 そんな増子さんが、ふたりの娘さんと立ち上げたのがこちらのワイナリー。ここで作られるのは、単なる「海外のお酒の国産化」にとどまらない、日本でしか作れない「ワインの日本化」を標榜するワインたちです。

 最先端のスタイルから、「OLD FASHIONED」という昔ながらの甲州ワインを最先端の技術と知見で作った甲州ワインや、赤ワイン用のぶどうマスカット・べーリーAの白ワインなど、チャレンジングなテーマにも取り組んでいます。

 そんなCfaバックヤードワイナリーが2017年に世に問うたのが、今回紹介する2本のロゼワインです。醸造家の長女・春香さんの名前からとった「01 HAL」、そしてセラーキャット(ワイナリーなどで仕事の手伝いをする人の呼称のひとつ)として働きながら足利でぶどう栽培にも取り組んでいる次女・和香(のどか)さんの名前からとった「02 NOD」です。「DIAVOLETTE」というのは、悪魔の娘たち、という意味で、このワイナリーらしくウィットの利いたネーミングです。

 色が濃く、酸も高く、辛口の「HAL」。淡いパールピンクで、やや穏やかな「NOD」。この2つの日本のワインは、これまでは「HAL」は栃木県産、「NOD」は山梨県産のぶどうを使っていましたが、2021年ヴィンテージからは同じ栃木県産のマスカット・ベーリーA(MBA)を使用しています。ワインはぶどうの質はもちろんのこと、それをどう活かすかという醸造家のコンセプトや手腕でも大きく変わることを証明しています。

 この2つのワインは、だしを使った和食によく合います。例えばこれからの季節美味しくなるおでんにもぴったり。薬味として使う溶きがらしや柚子胡椒も、上手に受け止めてくれるでしょう。

 今回は、冬にぴったりの料理「治部煮」と合わせてみました。元々は金沢の郷土料理です。だし汁に醤油、みりんや砂糖、酒を合わせて沸騰させた地に、小麦粉などを付けた鴨や鶏のそぎ切りを入れて煮たものです。粉に熱が入ることで肉の表面がつるんとして、汁にもとろみが付きます。

 そして、そばだしを酒と水で割り、肉は鶏の胸肉を、粉は小麦粉ではなくそば粉を使いました。しっかりとろみを付けるよりも、そば粉の軽いとろみにした方が、軽やかなロゼワインに合うと思ったからです。

 しいたけと長ネギは一緒に煮込み、ほうれん草は下茹でしたものを乗せました。家庭で作るなら、美味しいめんつゆを使って、醤油などで味を調整すれば簡単に作れると思います。

 そばだしの甘やかさや醤油のこく、香りとロゼワインが寄り添うことは請け合いです!

幽庵焼きとスパークリングワイン

■高畠ワイナリー
 嘉-yoshi-スパークリング ロゼ ブリュット(参考価格 1892円)

 シャンパーニュに代表されるスパークリングワインは「泡もの」と呼ばれ、華やかで特別なイメージがあります。けれど、日常的に食事に取り入れられる美味しいスパークリグワインもたくさんあるのです。

 そんな中で今回紹介するのが、山形県の「高畠ワイナリー」のスパークリングワインです。山形県は山梨や福島、長野に劣らぬフルーツ王国です。洋梨の「ラ・フランス」やさくらんぼ「佐藤錦」などを思い浮かべる方も多いでしょう。もちろんぶどうの生産も盛んです。高畠ワイナリーはそんな恵まれた環境で、上質のワインを作り続けています。

 豊富なラインナップの中で、今回は「嘉-yoshi-スパークリング ロゼ」をご紹介しましょう。

 フランスのシャンパーニュ地方で作られる、いわゆるシャンパンは、「瓶内二次発酵」といって、瓶詰めしたあとに発酵させることでワインに炭酸ガスが含まれます。この作業は時間がかかり、大変で、どうしても値段が高くなってしまうのが難点です。

 ハイクラスのスパークリングワインはこの方式で作られることが多いのですが、手頃な価格のものはカーボネーション法という、炭酸ガスを注入するものが少なくありません。だからこそ、手頃なスパー-クリングワインが生み出せるというわけです。
 また、この方法だと品質が安定し、瓶による差が小さい点も長所といえるでしょう。

 このワインは、MBAを使って作られています。口に含むと、すっきりとしたドライな味わいで、酸も高すぎず、とても良いバランスです。炭酸が爽やかさを感じさせ、飲んだときにMBAの個性である綿菓子のような香りが口の中に広がり、とても美味しく飲むことができます。
 
 そんなワインに合わせるのは、魚料理でいかがでしょうか。
 スパークリングは鮨などにもよく合います。家庭でいただくなら、焼き魚も面白いかもしれません。そこで、今回は「幽庵焼き」を作ってみました。

 醤油、みりん、酒を、2:2:1の割合で混ぜたつけ汁に、柚子やすだち、かぼすなどの果汁と果皮を加え、魚を20分~1時間、漬け込みます。それをガステーブルのグリルやオーブン、オーブントースターで焼くだけです。つけ汁を刷毛などで塗りながら焼くと仕上がりが良くなります。サワラが代表的な魚ですが、鮭などさまざまな魚に応用できます。

 照り焼きなども悪くありませんが、炭酸ガスで軽やかな味わいになることを考えると、かんきつ類の果汁や香りが豊かな幽庵焼きは、よりマッチしていると思います。

世界中で大ブームが起きているロゼワイン

 日本のワイン愛好家に「ロゼワインが好き」というと、馬鹿にしたような反応が返ってくることがあります。それは、日本のワイン好きの多くが、マニアックで、旧弊で、時代遅れの価値観でガチガチになっているからだと指摘する海外のワイン評論家がたくさんいます。
 ロゼワインには、「味がはっきりせず、白でも赤でもないどっちつかずのワイン」というイメージが強いことも原因でしょう。

 しかし現代のロゼワインには、きりっとした辛口で果実の豊かな味わいや香りを持ち、それでいてほんのり甘やかさもあるチャーミングなワインがたくさんあります。

 ヨーロッパ、特に辛口のロゼワインが作られるフランスでは、近年ロゼワインの人気が高まり、周辺の国から輸入するほど飲まれています。
 アメリカでは、ニューヨークの若いセレブ層に大人気です。ミレニアル世代(1980~95年生まれ)の人たちは、ワインに対する固定概念を持たず、飲んで美味しいものを積極的に選択します。彼らはニューヨークから近いリゾート地のハンプトンに別荘を持ち、そこでロゼワインを愉しみながら、夏の休暇を過ごすといわれています。

 ロゼワインは、主に赤ワイン用のぶどうから作られています。赤ワインを作るとき、ワインの色を濃くするため、絞った果汁の一部を抜き取って果皮の比率を多くする「セニエ」という方法が採られることがあります。その抜き取られた果汁で作られたロゼワインが、ワイン通の間では有名です。

 また、赤ワイン用のぶどうを白ワインに似た醸造法を採ることで、果皮から出る赤色を抑え、ロゼワインにする方法があります。
 赤ワインと白ワインをブレンドして作る方法もあります。以前は「邪道」ともいわれてきましたが、ブレンド比率によってさまざまな味わいのワインができるので、法律で禁止されている一部の国以外では、チャレンジしているワイナリーも少なくありません。


文・レシピ考案◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
撮影◎大西尚明
スタイリング◎吉田千穂

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)