和食に合う日本ワイン[第1回]

定番の白、「甲州」を愉しむ

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ようこそ、「和食×ワイン」の世界へ

 甲州ワインにはさまざまなスタイルがあります。シンプルにステンレスタンクで発酵した、軽やかでフレッシュな辛口のワインが大半ですが、樽発酵や樽貯蔵、滓(おり)に触れさせて複雑さを出すシュール・リー、近年ブームになっている、発酵時に果皮と接触させる「スキンコンタクト」を施したオレンジワイン、さらにはスパークリングワインまで、さまざまなタイプのワインが作られています。

 今回はそのなかで、価格がリーズナブルで手に入れやすく、美味しいワインを、相性が良い和食と合わせて2種類ご紹介します。

「わさび」によく合う
フレッシュな味わいのやや辛口なワイン

■シャトージュン 甲州(参考価格 2200円)

 日本を代表するワイン産地・山梨県の勝沼にある、小さなワイナリーで産み出されたワイン。オーナーはファッションブランド「JUN」のグループ。かなり個性的な醸造家が作るワインですが、とても正直にぶどうの良さを引き出しています。

 シャトージュンの甲州は、2019年の大阪サミットの首脳夕食会で供されたワインで、ステンレスタンクで低温発酵されています。洋梨、花梨、柑橘の香りと、果実の甘やかさ 、バランスの取れた酸が特徴のやや辛口の白ワインです。ワイナリーの直販価格で1本2200円とお手頃です。

 甲州のワインは、わさびとの相性がいいといわれます。柑橘系の香り、そして果皮由来のかすかな苦みなどが、そう感じさせるのです。わさびを使って食べる白身魚のお刺身や、和食ではありませんが、ホースラディッシュを使ったローストビーフなどとよく合います。

 家庭で気軽に和食に合わせるなら、そばがきはどうでしょう。いろいろな作り方があります。
 おすすめなのは、そば粉を器に入れ、熱湯を注いでぐるぐるとかき混ぜるだけの簡単なもの。好みでお湯が多ければ滑らかに、お湯が少なければ少しポロポロした感じに仕上がります。

 焼き海苔でくるみ、花かつおとおろしたてのわさびをのせて、醤油をちょっと付けていただくと、立ち上るわさびとのり、かつお、そしてそばの香りと甲州が最高のマリアージュになります。

 甲州は天ぷらにも合います。春先のほろ苦い山菜や、海老、キス、メゴチなどの魚の揚げたての天ぷらを、塩をぱらりと振っていただくのも良いチョイスです。甲州の切れの良い酸が天ぷらの油をうまく流してくれ、易しい香りと繊細な味わいが野菜や魚介の美味しさを引き立ててくれます。

焼き鳥も甲州ワインで

■中央葡萄酒 グリド甲州(参考価格 2200円)

 もう一本のワインは、同じく勝沼の中央葡萄酒が作った「グレイスワイン グリド甲州」。
 30年程前、日本産ワインが世界に認知されていなかった頃から、勝沼では中央葡萄酒、勝沼醸造、丸藤葡萄酒など、いくつかのワイナリーが「世界に通用する日本のワインを」と品質の向上に努力をしていました。

 中央葡萄酒は甲州の可能性を見いだし、苗木ではなく種から苗を育てる実生栽培など、さまざまなことにトライしてきました。生食用が中心で、ワイン用としては糖度や果実味が不足していた甲州種の品質を上げる努力をしてきたのです。

 グリド甲州は、1999年に生まれたワインです。同じくグリ系のぶどう「ピノグリ」で作られたアルザスの白ワインに魅せられた現在の社主が、「日本ワインが日常の食卓に並ぶように」と考えたワインです。手頃な価格のデイリーワインですが評価は高く、いくつもの世界的なワインアワードを受賞しています。

 特徴は、フレッシュで、香りのボリュームが高いこと。グラスに注ぐと、白桃、洋梨、オレンジ、オレンジピールなどの果実香や白檀やジャスミンなどの白い花の香り、そして白胡椒やクローブなどのスパイスの香りを感じます。適度な酸のすっきりした味わいで、飲み飽きせず、いろいろな料理に合う万能ワインといえるでしょう。

 そんな手頃なワインに合わせるのに、例えば焼き鳥はどうでしょう。
 焼き鳥屋さんのテイクアウトや、スーパーマーケットで売っている焼き鳥をオーブンやオーブントースターで温めるだけで大丈夫です。通好みの塩焼き鳥は甲州にとても合います。一歩進んで考えるなら、わさびを添えてみてはどうでしょう。

 日本ワインは小さな作り手が多く、値段はやや高めで、生産本数も少ないのですが、甲州は日本を代表するワイン用のぶどうだけあって、比較的手に入りやすい価格で美味しいものがたくさんあります。
 日本ワイン入門に、まさにぴったりのぶどう品種だといえます。

グラス選びでより美味しく

 ワインを美味しく飲むポイントをひとつ。それは「グラス選び」です。
 ワインショップや食器売り場にはさまざまなワイングラスが売られています。中にはボウルの容量が800cc、1000ccという大きいものも。これは、ワインの品種や産地、グレードなどによって、その良さを引き出す「形」と「大きさ」があるからです。

 有名なリーデル社は品種や産地ごとに何十種類ものグラスを用意しています。その中には「甲州」専用グラスもあります。

 ただ、家庭ではそこまでたくさんの種類をそろえるのは大変です。まずは容量が250cc~350ccくらいのワイングラスを買うと良いでしょう。甲州はそのくらいの大きさで美味しさを発揮するワイン。繊細で、あまり大きいグラスだと味も香りもばらけてしまうのです。
 同じ白ワインでもフランス・ブルゴーニュのハイクラスのシャルドネなどは、もう少し大ぶりのグラスで豊かな香りを愉しむほうが美味しく飲めます。このクラスのグラスは、スパークリングワインにも向いています。

 さらには、赤ワイン用に350cc~450ccくらいの、イタリアのキャンティなどに向いたワイングラスを揃えると、家庭で日常的に飲むワインの8割は美味しく楽しめると思います。

 その先のハイクラスのワインを飲んでみたくなったら、それはワインショップやレストランのソムリエさんに相談してみるといいでしょう。深い沼に落ちるかもしれないと、覚悟をしなければいけませんが……。

作り手の努力で美味しくなった「甲州」

 かつて「日本はぶどう栽培に適した気候ではない」といわれ、日本ワインの評価はあまり高くありませんでした。けれど、ぶどうの一大生産地であり、同時に日本最大のワイン生産地でもある山梨県では、一升瓶に日本酒ではなくワインを詰め、晩酌代わりに飲む文化があったのです。

 現在でも一部のワイナリーで「一升瓶ワイン」は作られています。そのうち赤ワインは、輸入したぶどうや、ぶどうジュースを使って作られるものが大半ですが、白ワインは、日本ならではのぶどう品種「甲州」種で作られています。

(撮影◎坂井淳一)

 日本ワインの人気の一翼を担っているのが、この「甲州」です。ほぼ日本でのみ生産されるぶどうですが、奈良時代に日本に伝わった品種にさかのぼるという説もあります。
 ぶどうは、ヨーロッパにルーツを持ち、ワイン醸造に適した「ヴィテス・ヴィニフェラ」種と、アメリカ大陸にルーツを持つ「ヴィテス・ラブルスカ」種に大別されますが、甲州はヴィニフェラ種の遺伝子を濃くもちます。

 主に白ワインが作られますが、シャルドネやソーヴィニオン・ブランなどの白ワイン品種と異なるのは、「グリ(灰色)系」と呼ばれるぶどうであること。果皮は淡い藤色です。

 かつては生食用として盛んに栽培されていました。しかしいまでは、生産量のかなりの部分がワイン用です。その名の通り、甲州といわれる山梨県が栽培の中心です。一部、山形などでも栽培され、糖度が高く、質が良いぶどうが生産されています。近年ではドイツのライン川流域でも栽培されるようになりました。2010年にはOIV(国際ぶどう・ぶどう酒機構)でワイン用ぶどうとして登録されました。


文・料理◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
撮影◎大西尚明
スタイリング◎吉田千穂

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