「暮らしのヒント」を探す旅に出よう!~カナダ編

赤毛のアンのように暮らしたい

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アンのおしゃべりが聞こえてきそうなグリン・ゲイブルス

質実ながら、窓辺の花やお手製のマットがかわいらしいアクセントになっているアンの部屋。奥、茶色のドレスがマシュウからの贈り物。

 アボンリー村で暮らすマシュウと妹のマリラが、働き手として男の子を孤児院から引き取ろうとしたところ、やってきたのは赤毛を三つ編みにしたおしゃべりで空想好きな女の子……。

 1908年に出版された「赤毛のアン」の舞台は、カナダ東部に位置するプリンス・エドワード島。アンが暮らしたグリン・ゲイブルスは、この島で生まれ育った作者のL.M.モンゴメリがよく訪れていた親戚の家がモデルになっています。

 現在、見学施設となっているその周辺には、「恋人の小径」「お化けの森」といった、アンが名付けた景色も残され、物語の世界をリアルに感じられるのが魅力です。

物語の舞台になったグリン・ゲイブルスは、両親を早くに亡くした作者のモンゴメリが祖父母と暮らしていた家の近所にありました。

無口な性格に似たシンプルなマシュウの部屋(上)と、きっちりとした性格そのままに整頓されたマリラの部屋(下)。

 グリン・ゲイブルスの1階には居間と客間、そして台所から続く食堂を兼ねた空間が、2階にはアンやマリラ、マシュウの部屋などがあり、それぞれに作品と関連するアイテムがあしらわれているのも嬉しい限り。

 島にやってきたときに持っていた古い手提げバッグや後に生涯を連れ添うことになるギルバートとのけんかで割ってしまった石版、マシュウから贈られたパフスリーブのドレスなど、アンの部屋の小物を目にするだけでも、胸がいっぱいになります。

無駄を出さない
自給自足の時代を思う

 台所もまた、家の住人が今にも戻ってきそうなほど道具が揃っており、パントリーにはボウル焼き菓子の型なども見られます。

 アンの物語には、おいしそうな手作りのお菓子や料理が数多く描かれていますが、グリン・ゲイブルスに限ったお話ではなく、当時の島の食卓を飾る品々のほとんどが自家製。材料は家畜を飼い、畑を耕して実りを得る自給自足でした。モンゴメリが残したレシピ集を読んだ際には、ガチョウのローストの作り方が羽をむしるところから始まっていて驚かされました。

実りの秋、リンゴ園は家族連れで賑わい、皆、たくさんのリンゴが入った大きな袋を抱えて帰ります。日本のものと比べて、リンゴは小ぶりで酸味のあるおいしさ。

 さらには、ジャガイモを入れた麻袋は玄関やベッドサイドのマットにつくりかえ、小麦粉などが入った細かい目の布袋はキルトの下地にするなど、リサイクルも徹底。
 島に住む90歳の女性に昔話を聞いたところ、実際に「無駄なものはない」と言われながら育ったとか。パン作りが上手いのは最後に屑を出さない人で、洋服はもちろん、靴下まですべてお手製。

「座っていると、母から何かしら言いつけられるのがいやでしたね。2時間混ぜても固まらないのに、とにかく続けなさいと叱られる、毎週土曜日のバターづくりも大変でした」

島の家庭でつくられているピクルスの数々。中央、マスタードをたっぷり使うのが、プリンス・エドワード島の流儀です。

 夏、皆が一斉に野菜のピクルスを仕込む時期はかつて、道にまで酢の匂いが漂っていたそうですが、大きなショッピングセンターやファストフード店が並ぶ今、島の暮らしは変わりました。伝統的な習慣は失われつつありましたが、最近では若い世代が関心をもち、ジャムやピクルスづくりをあらためてはじめる人も多いそうです。

 その流れに乗り、島のクッキング教室で昔ながらのレシピでリンゴのジャムをつくったことがあります。スケールに乗せられた山のような砂糖の量には恐れをなしましたが、結果的には、ダイエットなどどうでもよくなってしまいそうなほど幸せな甘みにはまりました。

 日本へと持ち帰った3個のガラス瓶はしばらくの間、雑然とした棚の中で輝いて見えていたのも、忘れがたい思い出です。

年齢を重ねるほどに心に響くアンの言葉

 四季折々、プリンス・エドワード島の景色はそれぞれに美しく、旅すればそこかしこで絵葉書のような美しい景色と出会えるのも魅力。アメリカ東部に住む人たちにとっては、夏の憩いの場としても人気の場所です。

 食通には、美味なる場所としても知られています。その代表格がロブスターとオイスター。とりわけオイスターは淡く繊細なおいしさで、食べ過ぎること確実。アンのファンではなくとも、楽しみはたっぷりあることでしょう。

アンの家の台所の要は大きなストーブ。ほか、暖房は客間の煖炉だけなので、日常的にはこのストーブが家全体を暖めていたのでしょう。

 作品の中に自分が愛する景色の描写をモンゴメリがふんだんに盛り込んでいるだけに、ページをめくるだけでも旅行気分を味わえます。おとなになった今なら、アンだけではなくマリラややかましやのリンド夫人など、幼い頃には遠い存在だった女性たちの生き方にも共感を覚えるかもしれません。

 何よりも心に響くのは、きらめくアンの言葉の数々。アンの世界をご存じない方、あるいはしばらくぶりという方は、ぜひ、本を手にとってみてください。

「これから発見することがたくさんあるって、すてきだと思わない? あたししみじみ生きているのがうれしいわ――世界って、とてもおもしろいところですもの。もし何もかも知っていることばかりだったら、半分もおもしろくないわ。そうでしょう? そうしたら、ちっとも想像の余地がないんですものねえ」(「赤毛のアン」L.M.モンゴメリ作/村岡花子訳/新潮文庫より)

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