健康を支えるのは、家族
「温度や湿度、空気の質がどれほどよくても、それだけでは健康住宅とは呼べません。それ以上に大切なのは、『家族が育つ家』であることです」と星さんは言います。
星さんは、全国5万人の高齢者を調査し、13年ほどその方々とおつき合いしながら、その後の生活も見てきました。その中で分かってきたのは、生活習慣がよいと長生きするという定説は間違いで、気持ちを前向きに持って生きている結果、生活習慣も向上し、結果的に長生きするということでした。
「例えば、子どもたちが生活習慣を向上していくには、その支えとなる夢を持てることが重要ということです。そして、夢を持つためには、一緒に食卓を囲んで、今日1日の楽しかったことや辛かったことを話せる家族がいることが大事なのです。『明日もがんばろうね』と言ってくれる人が必要なのです。そうやって、子どもが成長し、お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんも成長する。家族全体が成長していくのです。
健康を支えるのは家族であり、家族全体が成長していくことを支援する環境を整備しようのが、ファミリー・デベロップメントいう考え方です。そのためには、温度や湿度、空気の質の他に、例えば景観が非常によいとか、夜は静かでぐっすり眠れるとか、朝学校に行くときに隣のおじいちゃんが『行ってらっしゃい』と声をかけてくれるとか、そうしたさまざまな屋内外環境が非常に重要なのです」と星さん。
心も体も暖かく、家族が成長する家――。
それが、健康長寿をかなえる家のキーワードなのです。
健康住宅へのリフォーム、その効果はてきめん!
「心も体も暖かく、家族が成長する家」を目指し、リフォームを考えた場合はどうすればよいのでしょう。
「そうした家は、健康住宅、高断熱・高気密住宅などと呼ばれています。本連載の第2回でも紹介しましたが、健康住宅に住む人は、アレルギーや高血圧、関節炎などが改善し、糖尿病や心疾患、脳卒中の発病率が少ないということが分かっています。
これは、暑さ寒さのストレスがないだけでなく、カビやダニの発生が少なくなり、本来の体調を取り戻すことができるからと考えられます」と星さん。
じつは星さん自身も2014年に、リビングと寝室のある2階部分を中心に断熱化し、床を無垢材に張り替え、壁も自然素材の塗り壁にしたそうです。
「健康住宅の効果は想像以上だった」と言う星さん。
「その効果はてきめんで、冬になると寝室の温度は6.4℃になることもありましたが、それが冬でも11~13℃になり、結露もぱったりとなくなりました。熟睡できるようになったことに加え、暖房費用も低下し、さらに健康面での成果も見られました。いちばん大きいのは妻の血圧がたった2ヵ月間で見事に低下したことですね」
このように大きな効果を発揮する健康住宅ですが、気になるのはリフォームにかかるお金です。自宅を本格的に断熱化するとなると、当然費用もかさむでしょう。
「日用品の買い物とは違うのでそれなりに高額ですが、まずは実際に見積りをとってみてください。項目ごとに優先順位をつけて、必ず予算内で行うようにします。例えば、寝室と居間の窓断熱だけを行う、1階部分だけを断熱化するなど、予算に合わせてリフォームしてみてはいかがでしょう」
健康住宅へのリフォームは、人生のための先行投資
自宅の断熱化を考えたとき、その費用対効果も気になるところです。例えば、100万円かけて自宅を断熱化したら、いったい何年で元がとれるのでしょうか?
下記のグラフは、星さんたちが発表した研究試算。1999年の省エネ基準に適合する戸建住宅を100万円かけて高断熱化したら、何年で回収できるかを試算したものです。
それによると、光熱費の削減だけでは100万円を回収するのに28年かかります。しかし、健康が維持されたことで本人が得た有形・無形の価値を加算すると16年。健康保険からの公的負担も加算した場合には11年で回収できるということです。
100万円の工事費は11年で回収できる。
「しかし、さらに考えてみてください。年金受取額が夫婦で月30万円とすると、3ヵ月長生きすれば90万円になります。リフォームに100万円かかったとしても、快適な温度環境の家に住んで病気も減り、しかも3ヵ月長生きすれば元がとれるわけです。
実際、私たちが行った調査によると、冬場の脱衣所の室温が2℃高くなると、健康寿命が4歳延びることが確認されています。
健康住宅へのリフォーム費用は、単なる修繕のための“支出”ではなく、人生のための“投資”。そう考えて、40代・50代の早いうちに自宅の断熱化などを進めてほしいと思います」
3回にわたって「健康長寿をかなえる家づくり」について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。人生の最期まで健康で生き生きとした生活を送るために、ぜひ住宅環境の改善に取り組んでみてください。
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