健康長寿をかなえる家づくり[第1回]

「ゼロ次予防」の観点から「家」を見直そう

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「長生きをして、人生を楽しみたい」
「人生の最期まで、寝たきりになりたくない」
健康長寿は誰もが願うこと。そのために、食生活に気をつけたり、適度な運動を心がけたりしている方も多いことでしょう。しかし、健康寿命に大きな影響を与える要因の1つに、「家」があることをご存知でしょうか? 
今回は、長年にわたって健康長寿に関する調査・研究を行っている首都大学東京名誉教授の星旦二さんに、健康長寿をかなえる家づくりについて教えてもらいました。

長生きして、年金獲得1億円を目指そう!

「健康で長生きすることは大きなメリットになる」と、星さんは話します。

 おいしいものを食べたり、好きな本を読んだり、旅行に行ったり、家族と笑ったり……。人生をめいっぱい楽しむためにも健康長寿を目指したいもの。それに加えて、「長生きしたら、年金獲得1億円!」と聞くと、さらにやる気が湧いてくるのではないでしょうか?

「あまり知られていないことですが、もし90歳まで夫婦が揃って健在なら、年金の受取総額は1億円近くに達します。宝くじで1億円当たった人はなかなかいませんが、年金で1億円獲得の可能性はあるのです。

 しかし、64歳で死亡した場合の年金受取額は、特別に前倒しで年金受け取りをしない限りゼロです。大損だと思いませんか?

 健康で長生きすることは、私たちにとって大きなメリットになるのです。このことを励みの1つとして、ぜひ健康長寿を目指していただきたいですね」と星さんは言います。

ピンピンコロリのための5つの秘訣

「健康で長生きし、最後にストンと亡くなることをピンピンコロリ(PPK)と言いますね。その反対は、不幸にして長期の寝たきりになって亡くなることですが、私はこれをネンネンコロリ(NNK)と命名しています」と星さん。

 では、ネンネンコロリではなく、ピンピンコロリと逝く、つまり健康長寿のためにはどうすればよいのでしょう? 「大切なのは、依存心よりも自立心です」と星さんは言います。
「つまり、医療や投薬に頼りすぎずに、日々の暮らしの中で自分の健康を自分で守る姿勢がなによりも大切なのです」

 星さんが調査・研究から導き出した健康長寿の秘訣は多数ありますが、ここではその中から5つをご紹介しましょう。

1.「自分は健康だ」と思おう
「自分は幸せだ」と思っている人が幸せであるのと同じように、「自分は健康だ」と思っている人が健康であり、その後も元気で長生きできることが分かっています。どんな状況でも「健康は私自身が決めるもの」と信じる心を持ちつづけましょう。

2.ポジティブに生きよう
「自分はこれでいいのだ」という自己肯定感が強い人は、元気で長生きだということがデータで証明されています。ありのままの自分を認めて褒めてあげる時間をとるのは、心と体にとてもよい影響をおよぼします。

3.配偶者や友達を大切にしよう
「他者とのつながりが多いほど人間は長生きする」ことが調査・研究で分かっています。配偶者や家族、友人など、自分にとって重要な人間関係を大切にすることは、自分自身の健康を大切にすることにつながるのです。

4.「一病息災」の精神を持とう
誰でも体の不調を感じることがあります。高齢者ならなおさら、なんらかの病気を持っているのは当たり前でしょう。ですから、もし何かの病気を指摘されても落ち込んだりしないことが大切。病気とともに生きていく「一病息災」の精神を持ちましょう。

5.夢や目標、生きがいを持とう
夢や目標、生きがいを持つことは、生活習慣をよくする生き方をするうえで欠かせません。やりたいことを見つけると、それを実現しようと前向きに生きるようになり、心も体も自然に整っていくことでしょう。

室温18℃以下の賃貸住宅には解体命令

 ここまで健康長寿のための秘訣を見てきましたが、さらに考えたいのが「家」のことです。

「ゼロ次予防」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
 ゼロ次予防とは、これまでの予防医療の中心だった早期発見、早期治療よりも、日々の生活を重視した根源的予防を行おうという考え方です。

「例えば、健康を害する最大の要因は喫煙です。では、喫煙が原因で肺がんになって亡くなった場合、それは個人の責任でしょうか? 必ずしもそうではありません。アイスランドでは、タバコの自動販売機そのものを撤去し、平均寿命世界一を達成しています。これがゼロ次予防です。

 同じように、健康のために住環境を整備することもゼロ次予防です。ヒートショックに代表されるように、温度較差の少ない暖かい家に住むことは非常に大切です。例えば、イギリスでは、冬場に室温を18℃に保てない賃貸住宅には改善命令が出され、従わない場合には住宅の解体命令が出されます。これもゼロ次予防なのです」

「家」はいちばん長い時間を過ごすところであり、自分の生活の基盤となる大切な場所。当然、健康にも大きな影響を与えます。健康長寿を目指すなら、夢や目標を持ってポジティブに生きるのはもちろん、生活の基盤である「家」をゼロ次予防の観点から見直し、病気や寝たきりをつくらない住環境にすることが大切なのです。

(第2回に続く)

●お話を伺った人

星旦二さん

首都大学東京名誉教授
1950年、福島県生まれ。福島県立医科大学卒業後、東京大学で医学博士号を取得。東京都衛生局、厚生省国立公衆衛生院、英国ロンドン大学大学院留学などを経て、現職。聖路加看護大学、東京医科歯科大学の非常勤講師も務めた。公衆衛生のエキスパートとして、全国地方自治体などと共働し、「健康かつ幸せな長寿」に関する調査・研究や提案をつづけている。著書に『ピンピンコロリの法則「おでかけ好き」は長寿の秘訣』(ワニブックス)、『ピンピンコロリの新常識』(主婦の友社)、『人生を変える住まいと健康のリノベーション』(新建新聞社)など多数。

文◎桑原奈穂子 撮影◎石橋素幸 画像提供◎Shutterstock.com

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