いま、なぜ「週末田舎暮らし」なのか [第2回]

移住は「リフォーム済み」物件へ!

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週末だけの「田舎暮らし」だからこそ、なるべくお金をかけずに快適的に過ごしたいもの。千葉県いすみ市でシェアハウス、図書館、カフェを営む三星千絵さんが、住まいの選び方についてアドバイスします。いったい、どのような「家」を選んだらいいのでしょうか。

「週末田舎暮らし」にふさわしいエリアとは

お話をうかがった三星千絵さん

「週末田舎暮らし」の「家」は、本格的に移住をするわけではないので、鉄道や高速道路が整備されたアクセスがいいエリアを優先して探せばいいでしょう。

ただ、都会から近くても、いつも渋滞していたり、鉄道が通っていても本数が極端に少なければ、移動時間ばかりかかり、せっかくの田舎での滞在時間が短くなるばかりか、疲れて十分に楽しめないということにもなりかねません。

田舎暮らし専門誌の全国人気ランキングでは、UターンやIターンといった本格的な移住地として、山陰や九州の自治体が上位に並びます。その中で山梨や千葉の自治体が上位に顔を出しているのは、自然が豊かでありながら、首都圏の大都市からアクセスがよく、なじみ深いということがあるのでしょう。

三星千絵さんが移住先に千葉県いすみ市を選んだのは、雑誌の旅企画を何気なく読み、いすみ鉄道に乗って同市を訪れたことがきっかけでした。いすみの風景が気に入り、何度か訪れるで、心豊かな生活を求め、移住を決意します。役場や地元の方々の情報、不動産業者の情報、先輩移住者の情報をもとに、これだ! という古民家を選ぶことができました。

「週末田舎暮らし」のための拠点探しは、三星さんのように、まずは日帰旅行感覚で候補地を訪れ、気になる物件を探すことから始めればいいでしょう。

物件の安さで即購入だけは避けたい

千葉県は首都圏でありながら、自然が豊かで気候も比較的穏やか。しかも、格安物件もあり人気があります。田舎暮らし雑誌の物件情報や田舎物件専門の不動産業者が扱っている物件を調べると、300万円以下の物件も散見されます。

「見た目がかなり立派な物件が、驚くほど安い価格で売られていますので、即決していく人も珍しくはありません。ただ、しばらく人が住んでいない家は傷みが進んでいることが多くて、後から修繕にお金がかかり苦労している人を見てきました。本格移住をしようとしている人、ましてや『週末田舎暮らし』をするなら、自治体が提供するお試しとか住宅とか、賃貸の物件でまず過ごしてみることをおすすめします」

こう語る三星さん自身、シェアハウスにしている古民家のほか、ご自身や地元農家が栽培した野菜出すカフェ、現在お住まいのご自宅も、すべて賃貸。「購入」ではなく「賃貸」を薦める理由は、「もし肌に合わなければ、賃貸のほうがやり直しをしやすいから」だと言います。

とはいえ、候補地がたとえ週末だけ過ごす場所であっても、「暮らしやすいかどうかは念入りに情報の収集をすべきです」と三星さん。

地元の人たちと深く交流するのが面倒で単なる滞在と割り切るなら、別荘地やリゾートマンションを選択するのがいいと、三星さんはアドバイスします。東京オリンピックのサーフィン会場に隣接するいすみ市には、別荘やリゾートマンションがあります。地元の人との交流が煩わしく、交友関係を絞りたいのであれば、それも一手です。

格安の物件もありますし、家賃も手ごろという物件も珍しくありません。ただ、リゾートマンシもョンや別荘の管理費は、一般のマンションより高め。維持にあたっては、思っていた以上にお金がかかることがありますので注意が必要です。

自分でリフォームするか、リフォーム済みを選ぶか

敷地内には納屋を改装した図書館も

リフォーム済みの物件は手が加えられている分、割高な傾向にあります。ただ、これは考えようだと、ある田舎物件専門の不動産業者は言います。

「リフォームに何百万円をかけた物件でも、その金額がそのまま上乗せされて売りに出ていたり、家賃に大きく反映されているかといえば、そうでもありません」

三星さんが「ほとんど手作りした」と話す図書館の内部

三星さんの借りた古民家も、周辺の物件より割高だったといいますが、キッチン、お風呂とった水回りはリフォームされていたので、借りてからお金はかからなかったのは助かったと言います。リフォーム済み物件のほうが、住んでからの出費は抑えられる可能性が高そうです。

もちろん、リフォームを自由にしていいという物件を借りて、思う存分自分好みの週末拠点を作っていくのも、DIY好きにはこたえられないようです。

「図書館は、窓もない納屋を基礎部分や窓枠を大工さんに頼みましたが、ほとんど手作りです。ああでもない、こうでもないと作っていくのも楽しいものですよ」

多少コストがかかっても、あえてリフォームを楽しみながら、理想の週末拠点を作っていくというのも、田舎暮らしのモチベーションが上がるようです。

注目される安全な拠点選び

最寄駅のいすみ鉄道・国吉駅。1両編成の列車で、外房線大原駅まで行けます

最近の傾向として海の見える物件は避けられる傾向があるといいます。海の見える家といえば、本格的な移住希望者のみならず、週末田舎暮らし派にとっても、憧れの物件のような気がしないでもありません。しかし東日本大震災以降、“海派”の方も、沿岸から内陸へ10キロくらいは入ったエリアの物件を希望する傾向があると、前出の田舎物件専門の不動産業者は言います。

実際、地方の自治体が移住者に対し、手厚い移住者優遇策だけでなく、地震をはじめ災害が少ない地域をアピールしているところもありますし、水害や山崩れを連想させるような地名のところへの移住は避けた方がいいとアドバイスする不動産業者もあります。

「滞在先を内陸にしても、海までクルマで15~20分くらいですから、マリンスポーツや海釣りが週末田舎暮らしの目的であっても、不便を感じることはないでしょう」

こう語る三星さんがお住まいのエリアまでは、鉄道で2通りのアクセスがあります。1つは東京駅から特急で1時間ほどの茂原駅から入るルート。茂原駅からはコミュニティバスで30分弱、タクシーで20分ほどで、コミュニティバスならワンコイン、タクシーだと4000円強です。

もう1つが、最寄駅のいすみ鉄道・国吉駅を使うルートで、ここからならタクシーで10分ほどです。いすみ鉄道は通勤通学時間帯を除けば、日中は本数も少ないのですが、東京駅に直結する特急の停車駅、外房線大原駅まで15分ほどで移動できます。

クルマでも都心から「内陸ルート」と「東京湾アクアラインルート」の2通りがあり、いずれも2時間ほどで移動できます。都会生活の感覚では便利とはいえませんが、これくらいの移動手段があり、時間であれば、理想的な週末田舎暮らし圏内と言えるでしょう。

クルマを購入しないと週末田舎暮らしは困難?

「本格的な移住を考えるのならクルマは必須」と、三星さん

いくら都会から近くても、本格的に移住をするならクルマは必需品だと三星さんは言います。彼女のシェアハウスの入居条件の一つに運転免許を持っていることという約束ごとがあるくらいです。

「シェアハウスの近くには農協の直売所があり、新鮮な食料品は手に入れることができますが、自然豊かな環境を求めると、どうしても日常品の買い物や病院に行こうと思っても、都会のような頻繁に走っている交通機関はありませんので、クルマがないと不便を感じますね」

もっとも、移住ではなく週末田舎暮らしの生活なら、クルマを所有しなくても、現地でレンタカーを確保すれば問題ないでしょう。最寄りの駅周辺にレンタカー業者がなくても、移動の途中で特急が停車するような駅であれば、レンタカーは確保できます。

列車とレンタカーを予約すると割引になるJRのサービスを受けられる場合もあり、移動の時間とコストを抑え、便利な週末田舎暮らしも可能でしょう。

地域のイメージに惑わされない

「千葉というと温暖なイメージがあると思う方もいるかもしれませんが、内陸のいすみ市は案外寒いです。南房総なら冬でも比較的温暖ですが、このエリアですと、海沿いは雨でも、雪になることもあります。特に古民家の場合は、天井も高いしすきま風もあって、しっかりとした暖房の設備は欠かせません」

夏に田んぼを渡る風は、天然のクーラーのようではありますが、場所によってはエアコンがあった方が快適だと三星さんは語ります。

気に入ったエリアがあっても、季節ごとに訪れることはもちろん、物件選びにあたっては、即決せずにどこをどう直さなければならないか、よく確認して検討すべきですし、エリアのイメージに惑わされず、実際の気象条件も体感して、拠点選びをしたいものです。

文=三星雅人 撮影=小林彦真

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