いま、なぜ「週末田舎暮らし」なのか [第1回]

「プチ移住先探し」3つの条件

空間
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関心
ライフスタイルリフォーム

豊かな自然の中で、趣味を楽しみながらのんびり暮らしたい。こんな夢を持っている人は少なくありません。とはいえ、都会での仕事を辞めてまで、田舎暮らしに踏み切れない人も少なくないでしょう。そんななか、仕事が休みの週末だけ「田舎暮らし」を楽しむ人が増えているようです。そこで、東京でのOL生活に終止符を打ち、千葉県いすみ市に移住した三星千絵さんに「新時代の週末田舎ライフ」のアドバイスをしてもらいました。

田舎暮らしの主役は高齢者から若年層へ!?

「老後をのんびり暮らす選択肢」としての田舎暮らしもさることながら、いまは若者の脱都会の新たな生き方として注目されています。ネット時代、どこにいても仕事ができるとあって、自然環境のいい「田舎」で暮らし、仕事のモチベーションを上げ、趣味を充実させたい、自然に親しみたい、農業をしたい、いい環境で子育てをしたいという、夢をもって移住する人も少なくありません。とはいえ、いきなり会社や家業を捨てて田舎に移住するのは無理があるでしょう。自分の暮らしてみたい田舎の情報をキャッチし、何度か訪れて体験的に滞在してみる。いわゆる「週末田舎暮らし」をして、地元の魅力を肌で感じる。そのようにして、都会と田舎の二地域で暮らしている人が増えているようです。

政府が「地方創生」という錦の御旗を掲げ、各省もさまざまな取り組みをしています。こうした流れから、地方の自治体では、就業、起業や就農の支援、子育て支援などを手厚く行い、空き家を活用したお試し移住制度や、空き家バンクをはじめとする不動産情報の発信や移住の相談会などを行い、移住を促進しています。それが功を奏して、人口流出が問題になっている地域でも、転入が増え流出に一定の歯止めがかかったり、逆に増えている地方都市も存在します。

「旅行好きで、いすみ市のことも雑誌の旅企画で知った」と話す三星さん

三星千絵さんも、自治体の親身なサポートにより、東京でのOL生活に終止符を打ち、2011年に、千葉県いすみ市に移住した一人。三星さんは東京に近い千葉県市袖ヶ浦出身で、自宅から東京の大学に通い、卒業後も都内で働いていました。そんなある日、雑誌で千葉県のローカル線いすみ鉄道の記事を見つけます。

「千葉に生まれながら、里山があり、海も近いこの地を訪れたことがありませんでした。会社が休みの日にこの地に足を運び、気に入りました。『住んでみようかな』と思い、三度目に訪れた時に、いすみ市役所の窓口に相談に行ったところ、担当者が6、7人も出てきて質問に答えてくれました」

古民家シェアハウス。築150年、建坪80坪だそうです

自治体の親身な受け入れ体制もあって、単身移住。1年ほど暮らした後、築150年建坪80坪の古民家を貸してもらうことができたそうです。一人では大きすぎるし、家賃の負担を少しでも軽くするためにシェアハウスにした三星さん。移住希望者を募り、仲間とともに移住を始めます。地元の人たちと交流を図る手段として、納屋を手作りで「星空の小さな図書館」というサロン的な場を提供します。

その後、三星さんはこの地に移住してきた男性と結婚し、シェアハウスの近くに空き家を借りて住む一方、空き家を活用したカフェもオープン。地元の人々と都会からの移住希望者が気軽に交流できる場を開放しながら、移住のアドバイスもしています。現在、シェアハウスには「週末田舎暮らし」の方を含む移住者4人が暮らしています。

週末田舎暮らしにはどこを選んだらいいのか

週末田舎暮らしをするなら、現住地に近い田舎が第一の条件になります。田舎での滞在時間を増やすには、短い移動時間の場所が不可欠です。毎週のことになりますから、交通費が負担なっては長続きできません。週末田舎暮らしの目的は、とりもなおさず豊かな自然環境で心のリフレッシュでしょう。

「いすみなら、趣味の深堀や家庭菜園の延長的なプチ農業、サーフィンや釣り、サイクリングやハイキングにも向いていますね」

いすみ市は、2019年版 住みたい田舎ベストランキング(『田舎暮らしの本』宝島社)の小さなまち(人口10万人未満)「自然の恵み部門」で、人気ナンバー1に選ばれました。都心からJRの特急で1時間ほど、里山里海に近いこともさることながら、自治体の創業支援が手厚いことが評価されたようです。これが、移住先選びの2つ目の条件です。

三星さんは、いすみ市の場合には次のような魅力があるといいます。

1.自治体の受け入れ体制の充実

2.移住者(よそ者)に対する地元の人たちの寛容さ

3.住宅費(購入、賃貸費用)が比較的安い

4.多様なロケーション

「いすみ市は平成の大合併で3つの自治体が一つになりました。海が好き、サーフィンを存分に楽しみたいというのなら、東京オリンピック・サーフィン会場がある一宮周辺があります。リゾートマンション、小ぶりの住宅、別荘もあって、地域の方々とあまり交流しなくても『週末田舎暮らし』を望む人たちにはフィットするかもしれません」

三星さんのように、地元の人たちとの交流のなか、農作物を育てたり、豊かな自然を満喫してのんびりするなら、内陸の旧夷隅(いすみ)が向いているのではないかと言います。海まで車で15分とかかりませんので、釣りや海水浴を楽しむこともできます。

「ただ、漁港のあるエリアは、やや閉鎖的な側面もあります。『週末田舎暮らし』を含めた移住にあたっては、同じ自治体でもエリアによって気質が違うこともあるので、慎重に事を進めたほうがいいかもしれません」

このように、エリアごとの気質を見きわめながらプチ移住先を選ぶのが、条件の3つ目。三星さんはさらにこうアドバイスします。

「これは漁港のあるエリアに限ったことではないと思いますが、見ず知らずの都会の人がある日いきなりやってきて、なにかあそこの空き家に住むらしいと知ったら、やっぱり構えますよね。そういった意味でも、交流のなか自分の素性を明らかにしながら、受け入れてもらう努力は必要だと思います。それが苦手というなら、別荘地を当たった方がいいでしょう」

安いからといっても物件の衝動買いはNG

外見は古風ですが、室内はリフォームされています

都会の狭い住宅に住んでいると、土地が広く、ゆとりある田舎の建物は魅力的に映るものです。大きい古民家を借り、シェアハウスにした三星さんにしても、最初は一目ぼれだったようです。

「何軒か見てまわりましたが、畑もついた大きな古民家は造形も美しく、気に入りました。家賃は相場より高かったのですが、リフォーム済みで、借りた後にお金がかからないという点で、とてもよかったと思っています」

ただ、住むにあたって一番困ったのが、テレビとスマホの電波が届かず、ネット環境がなかったこと。有線でテレビやネット環境を整備し、スマホも電波をキャッチできるように設備を整えました。

田舎暮らしはお金がかからない。確かにそういう一面はあります。もちろん物件にもよりますが、都会に比べれば家賃は信じられないほど安い。実生活では、地元の方々と親しくなると、取れたての野菜を頂くこともあるとか。

「確かに家賃は安いし、売りに出ている物件も高級車よりも安かったりすることも珍しくないことから、『週末田舎暮らし』希望の方でも、即決していくケースもあります。でも、長く空き家になっている物件、見た目が立派な古民家でも、かなり手を加えないと実際には住めないことも少なくありません。やはり、最初から物件を購入するのではなく、自治体の体験会やお試住宅を利用して、本当にこの先ここに暮らしたいと思ってから住宅を購入しても遅くないと思います」

それでは、家(拠点)探すにあたりどのように情報収集したらいいのでしょうか。三星さんは体験を通じて、このようにアドバイスしてくれました。

1.空き家バンクをはじめとする自治体の情報

2.田舎の物件に強い不動産業者(都会の田舎物件に特化した業者や地元業者)

3.「先輩移住者」を含む地元の人たちの声

この3つを必ずチェックすべきだそうです。そのほか、雑草対策や基本的にクルマは不可欠。レンタカーで済ませるにしても、都会と田舎の移動にかかるので、案外お金はかかるものです。地元の方からいただいた農作物にしても、何らかのお返しをするのも礼儀です。

とはいえ、「週末田舎暮らし」は準備さえ怠らなければ、決してハードルの高い暮らし方ではありません。ネットさえあれば仕事もできる時代、趣味に没頭するだけでなく、美しい自然に囲まれながら、サテライトオフィスとしても利用するというのも、「新時代の週末田舎ライフ」にふさわしいかもしれません。

文=三星雅人 撮影=小林彦真

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